2017年12月22日 (金)

1か月分タダ働き?(横綱への給与不支給について)

大相撲の暴行事件をめぐって,横綱2名に対し,1月の給与不支給の処分がされるそうです。
暴行事件やその後ゴタゴタにコメントする気はありませんし,力士の場合は相撲部屋に所属力士数に応じてお金が出ているため,それで横綱が生活に困るわけではないようです。

しかし,普通の勤労者にとって,1か月分の給与を1円ももらえないとなると生活に重大な影響がありますから,非常に重い制裁です。
悪いことをして出勤停止になればともかく,1か月普通に仕事をしながら給与はゼロといわれると辛いですね。

そこで,労働基準法91条は次のように減給の上限を決めています。

就業規則で、労働者に対して減給の制裁を定める場合においては、その減給は、一回の額が平均賃金の一日分の半額を超え、総額が一賃金支払期における賃金の総額の十分の一を超えてはならない。

平均賃金は,3か月間にもらった賃金を3か月間の日数(休日を含む)で割った額ですから,残業代等を含めて月給が30万円であれば,平均賃金は約1万円になります。
その場合,減給の上限は1回につき平均賃金の半額である約5000円まで,1か月の間に複数回減給されたとしても,その合計額は月給の10分の1である3万円まで,と制限されることになります。
当然,1か月分の給与をゼロにするということは許されません。

ただし,これは働いたのに給与を払わない,という場合です。
出勤停止処分であれば,そもそも働いていませんから給与は発生しません。
なお,上記いずれの制裁も,減給や出勤停止をするだけの処分理由が認められなければ許されません。
減給や出勤停止は解雇ほどではないものの相当に重い制裁ですので,それに見合った処分理由が必要となります。

もし,従業員間で酒席での暴行事件があったとしても,大相撲にならって1か月間タダ働きだ!と処分すると大変なことになります。暴行の程度や経緯,反省状況等に照らして,減給はそもそも許されないという場合もありますし,仮に減給がやむを得ないとしても平均賃金の半額を除いた額は支払い義務が残ります。
さらに,労働基準法91条違反の減給には刑事罰が用意されています(同法120条により30万円以下の罰金)。

ちなみに,労働基準法は「労働者」にしか適用されません。
労働基準法にいう「労働者」とは,「職業の種類を問わず、事業又は事務所に使用される者で、賃金を支払われる者」をいいます(同法9条)。
もっとも,実態は「労働者」なのに,契約の形式上は「労働契約」以外の契約になっているなど,「労働者」といえるのかどうかが問題となる例は昔から少なくありません。

大相撲の力士は日本相撲協会と「力士所属契約」という契約をしているそうですが,これが労働契約なのかどうかが争われた事件は複数あります。

○東京地裁平成24年5月24日判決(判タ1393-138)
無気力相撲を理由に解雇された元十両の事案です。
無気力相撲による解雇は有効であるとして,力士所属契約の性質について判断せずに元十両敗訴としました(控訴後も結論は同じ。)。
労働契約の方が解雇は厳格に判断されるため,仮に労働契約であるとしても解雇が有効なのであれば,力士所属契約が労働契約でなかったとしてもやはり解雇(契約解除)は有効である,という論法です。

○東京地裁平成22年4月19日判決(判タ1346-164)
大麻使用を利用として解雇された元幕内・元十両力士の事案です。
これも大麻使用を理由とした解雇は有効であるとして,力士所属契約の性質について判断せずに元力士敗訴としました。

○東京地裁平成25年3月25日判決(判タ1399-94)
無気力相撲を理由に解雇された元幕内力士の事案です。
裁判所は力士所属契約は典型的な雇用契約でも準委任契約でもなく,「有償双務契約としての性質を有する私法上の無名契約」であると述べ,相撲協会の定めた懲罰規定にしたがって解雇の有効性を判断していますが,それにあたっては労働契約における解雇についての考え方を考慮すべきとしています(結論は解雇無効)。

○東京地裁平成25年9月12日判決(判タ1418-207)
野球賭博問題で解雇された元大関の事案です。
裁判所は力士所属契約は「準委任契約と労働契約の双方の性質を有する無名契約である」として労働契約の性質を有することを認めつつ,労働契約の性質が強いとしても,懲戒解雇は有効であるとしました(元大関が敗訴,控訴審も同じ)。

○東京地裁平成23年2月25日決定(労判1029-86)
親方に引退届を提出された幕下力士の事案です。
幕下力士は「有給」とされていますが,「本場所手当」(1場所15万円)しか支給されていないことなどを考慮して「労働契約」ではないと判断しました(結論としては準委任契約類似の契約であるが,力士から引退の申出があったとは認められないとして,契約の継続を認めました。)。

以上のとおり,明確に労働契約と認めた例はありませんが,東京地裁平成25年9月12日判決が労働契約の要素を有するとしていることからすると,労働基準法が適用される可能性がないとはいえません。
そういった意味では,初場所のある1月に給与不支給とするのは,仮にそれだけの重大事案であるとしても,労働基準法91条違反の可能性がありうるのではないでしょうか。

2017年11月30日 (木)

無賃乗車と逮捕(別件)

先日,キセル乗車と逮捕について書きましたが,今度は無賃乗車した本人が逮捕されました。

品川駅(東京都港区)から博多駅(福岡市博多区)まで新幹線に無賃乗車したとして、福岡県警は29日、住所不定、無職の男を鉄道営業法違反(無賃乗車)の疑いで逮捕し、発表した。「間違いです」と容疑を否認しているという。
博多署によると、男は29日、JR品川駅から東海道・山陽新幹線のぞみ号に乗り、運賃を支払わずに博多駅まで乗車した疑いがある。
博多駅到着前、車掌が車内改札で男が切符を持っていないことに気づき、精算するよう求めたが黙ったまま応じなかったため、博多駅を通じて警察に通報した。「品川では改札口を突っ切った。新幹線に乗りたくなった」と話しており、所持金は10円だったという。(朝日新聞17.11.30付)

先日書いた通り,鉄道営業法違反(無賃乗車)だけで逮捕されることは例外的なのですが,今回の男性は「住所不定」だったため,逮捕が可能なパターンでした。

ところで,無賃乗車が詐欺になるには,人間を誰か騙す必要があるのですが,今回は「改札口を突っ切った」そうですので,どうやって突っ切ったのかは別として,駅員さんを騙したといえるかは微妙です。
また,車掌さんにニセモノの切符を見せたとかいった事情もありませんから,車掌さんを騙したとはいえないでしょう。
そうすると,この男性は詐欺にならない可能性も十分ありそうです。
方法次第では詐欺(未遂)罪もありえますから,どうやって「改札口を突っ切った」のか,気になります。

2017年11月25日 (土)

キセル乗車と逮捕

アイドルファン仲間の「キセル乗車」を手助けして逮捕された件がニュースになっています。

アイドルファン仲間の「キセル乗車」を手助けしたとして、警視庁は、私立大学3年の男を建造物侵入の疑いで逮捕し、24日発表した。「今までに150回くらいやった。追っかけファンのネットワークがあり、キセルの手助けができる人は全国に数百人いる」と述べているという。
保安課によると、逮捕容疑は9月17日午後1時すぎ、知人=鉄道営業法違反(無賃乗車)容疑で書類送検=の無賃乗車を手助けする目的で入場券2枚を購入し、JR東京駅構内に侵入したというもの。2人はアイドルグループAKB48やHKT48のファンで、共通のファン仲間を通じて知り合ったという。
知人は岡山駅の改札を入場券を使って通り、新幹線に乗車。東京駅で降車して大学生の男と落ち合い、男が購入した入場券を使って改札を出ようとしたが、駅員が気づき、キセルが発覚した。

(朝日新聞17.11.24付。ブログの記事のほうが長く残るので年齢と住所は削除)

無賃乗車も岡山~東京間だとかなり高額になりますし,まして無賃乗車を助けるネットワークを作っていたとなるとかなり悪質ですから,他の仲間への警告の意味もあって逮捕して発表したのでしょう。

ところで,無賃乗車した本人と,手助けした仲間ではどちらが悪いでしょうか。
両方悪いのは当然ですが,無賃乗車に限ってみれば無賃乗車で利益を得たのは本人であって,仲間は捕まるリスクがあるのに特に利益を得ていませんから,本人の方が悪そうです。
法律用語で,犯罪を自ら実行する人を「正犯」,正犯の犯罪を幇助(「ほうじょ」。手助けの意味)するだけの人を「従犯」といいます。
従犯の方が基本的に刑は軽くなります(刑法62条,63条,68条)。

・本人→無賃乗車の正犯
・仲間→無賃乗車の幇助[従犯]

しかし,今回は少し様子が違います。

・本人→鉄道営業法違反(無賃乗車)で書類送検
・仲間→建造物侵入で逮捕・公表

無賃乗車には鉄道営業法29条でちゃんと罰則がありますが,実はその刑罰は50円以下の罰金又は科料となっています。
「えっ?無賃乗車しても罰金50円で済むの!?」と思ったら大間違い。
古い法律で罰金の額が見合わない刑については,罰金等臨時措置法という法律が用意されており,罰金の最高額が2万円未満の場合は,最高額が2万円に引き上げられています。
それでも2万円以下の罰金となると,住所不定でない限り,原則として逮捕されません(刑事訴訟法199条1項)。
無賃乗車した本人は,逮捕もされないわけです。

それに対して,建造物侵入は3年以下の懲役又は10万円以下の罰金となっており,決まった住居があっても逮捕できますから,今回は本人ではなく仲間が逮捕されてしまったわけで,ちょっとバランスが悪い気もします。

・本人→2万円以下の罰金又は科料
・仲間→3年以下の懲役又は10万円以下の罰金

もっとも,無賃乗車は駅員さんや車掌さんをうまく騙さないと途中で発覚してしまいますから,今回の場合は詐欺罪(10年以下の懲役)にあたる可能性が否定できません。
鉄道営業法違反に比べると,誰をどうやって騙したのか特定する必要があるため,とりあえず鉄道営業法違反にしてあると思われますが,詐欺罪になれば罰金では済みませんし,罰金刑でも犯罪として前科になりますから,絶対に無賃乗車はやめましょう。

※無賃乗車が詐欺にあたるかどうかに加え,仲間の行為が本当に建造物侵入にあたるのか,ならば本人はなぜ建造物侵入ではないのか,といったあたりも法律的には興味深い論点ですが,今日は時間がないので割愛します。

2017年11月 9日 (木)

選挙とお茶・コーヒー

解散・総選挙ということになってから突然忙しくなってしまい,しばらく更新していませんでした。

総選挙も終わったところで,私は弁護士の前は代議士秘書(政策秘書)をしておりましたので,選挙のこぼれ話も少し書いておこうかなと思います。

今日のテーマは選挙とお茶・コーヒー。
選挙事務所では,お客さんにお茶を出すことはできても,コーヒーは出してはいけない,ということになっていることをご存知でしょうか。
気になる候補者がいて,選挙事務所に顔を出したとき,出されたお茶を飲むのはOKですが,コーヒーが出されたら飲んではいけません。お酒はもちろんダメです。


選挙に際して,いわゆる「買収」が違法であることは皆さんご存知だと思います。
当然,選挙にかかわるスタッフも,少しでも心掛けのある事務所であれば,一緒に食事をしても割り勘を徹底しています。

「買収」は公職選挙法221条1項に規定があり,1号の

「当選を得若しくは得しめ又は得しめない目的をもつて選挙人又は選挙運動者に対し金銭、物品その他の財産上の利益若しくは公私の職務の供与、その供与の申込み若しくは約束をし又は供応接待、その申込み若しくは約束をしたとき」

など,6つの行為のいずれかに該当すると,懲役刑・禁錮刑(いずれも3年以下),罰金刑(50万円以下)を科されることがあります。
なお,買収をした人が候補者であった場合や多数の人を買収した場合など,さらに刑が重くなることもあり,さらに買収で受け取った金銭などは没収されます(同法224条)。

これに関して,公職選挙法139条は「飲食物の提供の禁止」を定めており,

「選挙運動に関し」「飲食物(湯茶及びこれに伴い通常用いられる程度の菓子を除く。)を提供すること」

を禁止しています。
例外は,上のカッコ内にある「湯茶及びこれに伴い通常用いられる程度の菓子」と選挙運動員に対する弁当(ただし数量限定)だけです。

単に事務所に顔を出しただけであれば選挙運動員ではありませんから,飲食できるのは「湯茶及びこれに伴い通常用いられる程度の菓子」に限られます。
そして,お茶はこの「湯茶」に含まれますが,コーヒーは「湯茶」に含まれないと解釈されています。
さらに,「菓子」もなんでもいいわけではなく,「これに伴い通常用いられる程度の」とありますから,お茶請け程度のものに限られるということになるのです。


そうしますと,お茶を出すのは適法,コーヒーを出すのは違法となります。

そして,事務所の方はお客さんに,1票入れてもらいたい,又は友人・知人に投票するよう声をかけてもらいたいと考えて接待するのが通常でしょうから,コーヒーを出した事務所の方は公職選挙法221条1項1号の「当選を…得しめ(る)…目的をもつて選挙人…に対し…物品…の供与、その供与の申込み…をし又は供応接待、その申込み…をしたとき」にとして買収罪にあたる可能性が高いといえます。

お客さんの方も要注意です。公職選挙法221条1項4号には

「第一号…の供与、供応接待を受け若しくは要求し、第一号…の申込みを承諾し…たとき」

とありますから,買収を受けた人も,買収した人と同様に処罰されてしまう可能性があります。
したがって,お客さんの方も,コーヒーを飲んではいけません。
付け加えると,「要求」も処罰対象ですから,選挙事務所でコーヒーをくれとか,ジュースをくれとか,お菓子にケーキを出せとか要求することもダメです。

コーヒー1杯で警察が現実に検挙するかはわかりませんが,法律上はダメですから注意してください。

2017年9月11日 (月)

奨学金返済問題ホットライン実施(2017.9.30)

日弁連が奨学金返済問題ホットラインを実施するそうです。
これから奨学金の利用を考えている方の相談もOKとのことです。

実施日:2017年9月30日(土)10:00~20:00

「奨学金の返済について各種救済制度の利用や法的整理・訴訟対応について弁護士が無料で相談に対応します。これから奨学金の御利用をお考えの方も御相談下さい。
フリーダイヤル【0120-459-783】(しょうがくきん なやみ)で実施いたします。」

https://www.nichibenren.or.jp/event/year/2017/170930.html

2017年8月31日 (木)

神奈川新聞に取り上げられました

「生活保護世帯から大学・専門学校へ進学するために」リーフレット&9/28学習会ですが,地元の神奈川新聞で取り上げていただきました。

開始時間が載っていないので,私の事務所に電話で問い合わせが来ています。
19時開始です。
当日も多くの方にご参加いただければと思います。

http://www.kanaloco.jp/article/274273

2017年8月30日 (水)

生活保護世帯からの大学等進学リーフ発行&記者レクをしました

私が幹事を務めている反貧困ネットワーク神奈川で「生活保護世帯から大学・専門学校へ進学するために」というリーフレットを作成しました。

生活保護世帯からの大学・専門学校等への進学率は,一般世帯の進学率の半分以下にとどまっています。
学びたいという意思があり,相応の学力があれば,大学や専門学校で学ぶことはそれ自体保障されるべきですし,高卒就職者の雇用は,以前に比べて非常に不安定になっている現在,大学や専門学校への進学は,貧困からの脱却という意味でも有効です。

しかし,生活保護を受けながらの大学・専門学校への進学は認められておらず,進学のためには生活保護制度上でもいろいろな問題をクリアする必要がありますし,授業料をはじめ学生生活を送るための費用を自分で用意する必要もあります。
これらの制度を解説し,どうすれば大学や専門学校に進学して学ぶことができるかについて解説したリーフレットです。

また,リーフレット発行にあわせ,9月28日に生活保護世帯からの大学・専門学校進学のための制度や問題点などについて学習会を行います。

これらの紹介のため,記者レクを行いました。リーフレットの紹介や生活保護世帯からの大学等への進学の現状・問題点等をご説明し,写真を撮ってもらいました。
記事に載ったらまたご紹介します。

リーフレットをご覧になりたい方はこちらから(PDF):
http://wriver.my.coocan.jp/gakuhi/leaf_seiho_shingaku.pdf

学習会(9/28)のチラシはこちらから(PDF):
http://wriver.my.coocan.jp/gakuhi/paper_170928.pdf

2017年8月 2日 (水)

旅行業法とサマーキャンプ問題:4 「営利の目的」の判断方法についての考察

4 「営利の目的」の判断方法についての考察

(1)法学において「営利」が問題となる場合

ア 商法・会社法の分野においては,「営利」は2つの意味で問題となります。

1つは,特定の対外的取引について営利の目的であるという場合の「営利の目的」,もう1つは「営利法人」かどうかを区別する要素としての「営利性」です。

前者の「営利の目的」とは,行為主体である自然人・法人・団体自体の性質ではなく,特定の対外的取引の目的がどこにあるかを問題とするものであり,後者の「営利性」は構成員が法人・団体を設立した目的が何であるか-構成員が利益を得るためか,それ以外の目的か-を問題とするものです。

イ 前者の「営利の目的」は「本来,対外的取引によって利益をあげる,すなわち収入と支出との差額を得るという目的をいうが,資本に対する報酬を含めて(資本的計算方法によって)収支がバランスすることが予定されている場合には,営利目的があるとされる。この目的は個々の行為について存在する必要はなく,また現実に利益を得ることは必要ではない。また,他の目的が併存していてもよい。」(弥永真生『リーガルマインド商法総則・商行為法(第2版)』有斐閣,2012p.17)とされます。

ここでいう,「資本に対する報酬を含めて収支がバランスすることが予定されている」の意義は明確ではありませんが,「資本に対する報酬」は対外的取引に投下している資本を他に投資すれば一定の利益・利息を得られるはずですから,これを「資本に対する報酬」というと考えるのが素直です。

そうすると,対外的取引によって収入と支出があり,単にこれが釣り合い,又は収入から支出を差し引くと「資本に対する報酬」を下回る見込みの場合は「営利の目的」があるとはいえないが,収入から支出を差し引いて,「資本に対する報酬」以上(同額を含む)となる見込みの場合は「営利の目的」があるということになります。

たとえば,ある対外的取引に1000万円の資本を投下しており,「資本に対する報酬」が金利1%で年10万円とすると,年間の収支差益が10万円以上の見込みである場合は「営利の目的」が認められるということになります。

なお,「医師・弁護士などの自由職業人については,個人の主観的意図のいかんにかかわらず,営利目的の存在を否定するのが通説である」(前掲弥永)とのことですから,社会通念上,通常営利の目的で行うとはみられない場合は,「資本に対する報酬を含めて収支がバランスすることが予定されている」場合でも,営利の目的は否定されることがあるということでしょう。

ウ 後者の「営利性」は「営利法人概念の構成要素としての営利性」と呼ばれ,ある法人が,構成員に利益を分配する目的で設立されたことをいいます。

具体的には株式会社のように,対外的活動によって得た利益を構成員に分配することを目的に設立される法人を営利法人といいます。

「分配」とは,株主に対する剰余金の配当や清算時の残余財産の分配をいいます。株式会社は,株主がお金を出し合い,対外的取引によって得た利益を会社にため込むのではなく,株主が分配によって利益を得る目的で設立されるものですから,株主に対し,平時に剰余金を配当せず,かつ清算時に残余財産を分配することもない株式会社を作ることはできません(会社法105条2項)。

一般社団・財団法人,公益社団・財団法人,NPO法人などでは,仮に利益が生じても,このような「分配」はできません。一般社団・財団法人法11条2項は明確にこのような「分配」を定款に定めることを禁止しており,特定非営利活動促進法2条2項1号の「営利を目的としないもの」は営利法人性を否定する趣旨と解されています。

エ 旅行業法においては,前者の「営利の目的」が問題になると解されます。

なぜならば,旅行業法の趣旨に照らすと,同法の目的である旅行の安全の確保や,旅行者の利便の増進等のためには,無登録者が不当な利益を目的として旅行者と運送等サービス提供者との間に介入する行為を防止する必要性が高く,旅行業法29条1号もそのような行為を刑事罰をもって抑止するために設けられたものと解されるとする高松高判平25.1.29高刑速平25-289の判示に照らすと,「営利の目的」は無登録者が利益を目的として旅行業該当行為を行っているかどうかの判断基準であると考えられ,そうでれば,旅行業該当行為を行うに際して前者の「営利の目的」があるかどうかを問題にすべきであって,仮に営利法人でなかったとしても,当該行為に「営利の目的」があれば,旅行者保護のため,旅行業法による規制がされるべきであると考えられるからです。

(2)裁判所の「営利の目的」の判断基準について

ア 「営利の目的」の認定につき,高松高判平25.1.29高刑速平25-289は,営利の目的について判断させるため,事件を松山簡易裁判所に差し戻し,同裁判所で営利の目的の有無を審理するよう命じました。

松山簡判平27.3.24は,①旅行業該当部分の支出を削減することで、イベント部分の損失を減少させ、又は利益を増加させることができる、②イベント部分を含む企画全体として営利の目的があるから,旅行業該当部分も営利目的がある,の2点のいずれもから営利の目的を認定できるとしました。

しかし,その差戻後控訴審である高松高判平27.10.8は,前記①は営利目的の認定が幅広くなりすぎ,これのみから営利の目的は認定できないとしつつ,②同様,バイクツアー自体が営利目的であることは明らかで,その一部である旅行業該当行為部分も営利目的であるとして営利目的を認め,最高裁もこれを支持しました。

イ 類似する事例として,宅地建物取引業においては,宗教法人の住職で責任者である被告人が,同寺の伽藍再建の資金を調達するため,同寺の所有する山林を切り開いて60数区画の分譲住宅地を造成し,一般に広告した上一般顧客に売却して利益を得た事例(最高裁昭和49年12月16日決定)で,「被告人が本件宅地の売渡しにつき利得の目的を有していたことは明らか」と判断しています。

また,覚せい剤取締法41条の2第2項にいう「営利の目的」は「犯人がみずから財産上の利益を得、又は第三者に得させることを動機・目的とする場合をいう」(最高裁昭和57年6月28日決定)とされており,「有償」であることを要する道路運送法4条違反(いわゆる白タク)について白タク運転手が受領した金員が「ガソリン代,修繕費,自動車償却費その他の実費を上廻る金額である」ことから「営利の目的」を認定しています(東京高裁昭和38年4月12日判決)。

ウ これらを考慮すると,当該行為又は当該行為と一連一体の行為により財産上の利益を得ようとすることを営利の目的といい,これらの行為により財産上の利益を得られる見込みがあり,それを認識してあえて行った場合には,その利益の利用目的によらず「営利の目的」は認定されるのであり,究極の目的が宗教活動や政治活動であったとしても,「営利の目的」が認定されることとなります。

もっとも,前記の商法における「営利の目的」の意義や前記白タクに関する東京高裁昭和38年4月12日判決が「実費」として修繕費や自動車償却費を考慮し,さらにそれを上回ることを指摘して「営利の目的」を認定していることからすれば,「財産上の利益」とは,少なくとも「資本に対する報酬を含めて収支がバランスすることが予定されている」をいうものと解すべきと考えますが,これについては明確ではありません。

いずれにせよ,国や公共団体,公的団体,非営利団体など,営利法人以外の団体であったとしても,当該行為自体について財産上の利益が残る場合には,「営利の目的」があると認定される可能性があるといえます。

(3)主催団体の属性による判断

ア 国,地方自治体

国や地方自治体が営利目的で事業を行うことは,通常考えにくいといえます。

これらは構成員から強制的に金銭を徴収し,その国民又は住民の福祉の増進のために事務を行います(地方自治法2条14項参照)。

そして,国民又は住民の福祉の増進のために行う事務は,通常,その費用の一部を受益者に負担させることはあっても,受益者からの収入が支出を上回るよう見込み,その収支差額を得ようとする,すなわち財産上の利益を得るために行うことはありません。

もっとも,国や地方自治体の営利の目的で対外的取引をすることを禁止する明文の規定は見当たらず(地方自治法等),絶対にありえないとはいえません。

しかし,国や地方自治体は,税収をもって行政活動を行うのが当然であり,一定の実費を徴収することはあっても,特定の事業によって財産上の利益を得ようとすること自体,非常に例外的な場合に限られるというべきでしょう。

イ 株式会社

株式会社が,その事業としてする行為及びその事業のためにする行為は商行為とされ,商行為は「営利の目的」で行うことを前提にしていますから(商法501,502,503条参照),株式会社がその事業として,又はその事業のために旅行業該当行為を行う場合,よほどのことがない限り「営利の目的」があるものと認定されるでしょう。

なお,株式会社がその事業とは無関係に旅行業該当行為を行う場合は,理論上,当該行為を率直に観察して,「財産上の利益を得る見込みがあるか」によって判断すべきですが,そもそも営利法人性を持つ株式会社が事業と無関係の行為を行うこと自体例外的であり(商法503条2項参照),「営利の目的」がないと考えるのは容易ではないでしょう。

ウ 一般社団法人・一般財団法人

一般社団法人及び一般財団法人に関する法律に基づく一般社団法人及び一般財団法人は,行うことができる事業には制限がないため,収益事業を行うことも許されています。逆に,公益目的・非営利の事業を行うことも自由です。

そうすると,これらの団体が旅行業法該当行為を行う場合は,当該行為を率直に考察して,「財産上の利益を得る見込みがあるか」によって判断されることになります。

同法11条2項で,剰余金の分配も残余財産の分配も禁止されており,営利法人性がありませんから,収益事業によって利益を得てもそれを構成員に分配することはできませんが,旅行業法上の「営利の目的」は当該行為自体に「営利の目的」があるかどうかで判断され,当該法人の営利法人性は問題となりません。

エ 公益法人

公益法人は,公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律の定めにより公益認定を受けた一般社団法人又は一般財団法人をいいます。

公益法人は,公益目的事業を行うことを主たる目的とする法人です(同法5条1号)。

しかし,収益事業等を行うことも許されていますから,収益事業等が旅行業に該当する場合は,一般社団法人及び一般財団法人と同様に,当該行為を率直に考察して,「財産上の利益を得る見込みがあるか」によって判断されることになると考えられます。「収益事業等」は「公益目的事業以外の事業」と定義されており,収益目的でなくても「収益事業等」に含まれる場合があるため,株式会社のように通常「営利の目的」があるとまではいえないでしょう。

他方,公益目的事業は同法5条6号で「当該公益目的事業に係る収入がその実施に要する適正な費用を償う額を超えないと見込まれるものであること」と定められており,行政庁がこれを満たすと認めたときに公益認定がされることからすれば,公益法人の行う公益目的事業は(資本に対する報酬を含めたうえで)黒字にはならず,収支均衡か赤字になるしかない事業であると行政庁が認めた事業であって,「資本に対する報酬を含めて収支がバランスすることが予定されている」とはいえず,営利の目的は通常認められないと解されます。

ただし,実際には同法5条6号を満たさないのに公益認定がされていたり,認定後に収益重視の傾向を生じていたりする場合は,例外的に営利の目的があると認められる可能性はあります。この場合,その事業は適正な費用を償う額を超える収入を得ることを禁止する同法14条に違反します。

オ 特定非営利活動法人(NPO法人)

特定非営利活動法人は,特定非営利活動促進法に基づいて設立される法人で,「特定非営利活動を行うことを主たる目的とし」「営利を目的としないもの」であるとされています(同法2条2項)。

しかし,5条1項に「その他の事業」により利益を生ずることを予定した規定がありますから,ここでいう「営利を目的としないもの」は,営利法人性を否定したにすぎず,営利事業を行うことを否定するものではないと解されます。

そうすると,「その他の事業」については,公益法人の「収益事業等」と同様,当該行為を率直に考察して,「財産上の利益を得る見込みがあるか」によって判断すべきと考えられます。

他方,「特定非営利活動」は,「不特定かつ多数のものの利益の増進に寄与することを目的とするもの」(同法2条1項)ですから,主たる目的は通常「営利の目的」ではないと思われますが,「営利の目的」が併存しても特に問題はなさそうです。

また,公益法人のような厳格な公益認定の手続はなく,認定NPO法人についてもその特定非営利活動が営利性を有しないことの要件はありません。

そうすると,「特定非営利活動」についても,一般論として,「その他の事業」に比べて「営利の目的」を伴わない場合が多いとみられるとはいえ,当該行為を率直に考察して,「財産上の利益を得る見込みがあるか」によって判断すべきと考えられます。

カ まとめ

以上のとおり,「営利の目的」の判断については,次のとおり分類できます。

(ア)営利目的はほぼ認められない

・国・地方自治体

・公益法人の公益目的事業

(イ)営利目的が認められるか率直な観察が必要

・一般社団法人等の事業

・公益法人の収益事業等

・NPO法人の特定非営利活動

(営利の目的がない場合が多いだろう,という程度の推認はされる)

・NPO法人のその他の事業

・株式会社がその事業と無関係に行う行為

(ウ)営利目的がほぼ認められる

・株式会社がその事業として,又はその事業のために行う行為

旅行業法とサマーキャンプ問題:3 「営む」の意義についての考察

3 「営む」の意義についての考察

(1)高松高判平25.1.29高刑速平25-259について

ア 「旅行業に該当する行為を営むとは,営利の目的で,旅行業に該当する行為を行うことをいう」と判示した前掲高松高判平25.1.29は,「営む」が「営利の目的」を含むと解釈した根拠として,旅行業法29条1項が,旅行業を営もうとする者の登録義務を定めた同法3条による登録を受けないで,同法2条所定の旅行業該当行為を「営んだ」場合の刑事罰を定めているところ「旅行業法の目的である旅行の安全の確保や,旅行者の利便の増進等のためには,無登録者が不当な利益を目的として旅行者と運送等サービス提供者との間に介入する行為を防止する必要性が高く,旅行業法29条1号もそのような行為を刑事罰をもって抑止するために設けられたものと解される」ことを挙げています。

この判示は,営利の目的がない場合は,無登録で旅行業該当行為を行っても,実害が生ずるおそれが高いとは言えず,また行為者も経済的な利益を得ようとしていないため刑事罰を与える必要があるとはいえないのに対し,営利の目的がある場合は,旅行者が相当の経済的損害を被る危険があり,また行為者も経済的な利益を得ようとしたものであり,悪質であって処罰の必要があると考えられるから,妥当であるといえます。

イ なお,この判決中には,高裁の審理において,検察官も「旅行業法29条1号に違反する罪の構成要件として「営利目的」が必要であるという解釈を前提に」意見書2通を提出した旨指摘されており,検察官は破棄差戻の可能性があったのに,「営利目的」が必要であることを争わなかったことが分かります。

検察官としては,この事件について当然「営利目的」が認められると考えていたとしても,他の事件への影響がありうるため,「営利目的」の有無によらず無登録営業罪が成立するというべき理由があれば,その解釈について争い,場合によっては高裁判決に対して上告を申し立てるべきところ,それをしていないわけですから,この点からも「営利目的」が必要であるという判断は相当であるとみられます。

(2)宅地建物取引業法等との比較及び制定経緯等

ア 他の業法における「営む」の意義

○○業を「営む」という用語は,ほかの法律(いわゆる業法)にも使われており,最高裁の判断がなされたものもあります。

最も古いとみられるのは,古物商営業法につき,同法「六条にいわゆる営業とは、営利の目的で同条所定の行為を反覆継続して営む意思を以てなすことを指称する」とした最決昭31.3.29集刑112-851ですが,その後宅地建物取引業法につき,同法「一二条一項…にいう「宅地建物取引業を営む」とは、営利の目的で反復継続して行う意思のもとに宅地建物取引業法二条二号所定の行為をなすことをいう」とした最決昭49.12.16刑集28-10-833(同旨:最決昭48.7.7集刑189-341)も出されました。

他方,相互銀行法につき,同法の「相互銀行業を営む」については「営利を目的とすることは必ずしもその要件とするところではない」とした最決昭35.7.26刑集14-10-1295もあり,○○業を「営む」が常に「営利の目的」を含意するとまではいえず,結局法の趣旨目的等に照らして検討するべきであると考えられます。

もっとも,他に漁業法・水産資源保護法(東京高判平19.8.9高刑速平19-287),建設業法,質屋営業法などについても「営む」は営利目的を含むと解されており,営利目的の有無を問わないという相互銀行法がむしろ例外的といえます。

そして,旅行業法の目的(1条)に照らすと,「営む」は「営利の目的」を含むと考えるべきことは,前記(1)のとおりです。

イ 宅地建物取引業法・相互銀行法との比較

 また,旅行業法と宅地建物取引業法は制定も同年(昭和27年)であり,いずれも議員立法で制定され,当初は同じ登録制度を採用し(宅地建物取引業法はのち免許制度に変更),現在,営業保証金制度や資格制度を設けている点も共通です。

他方,相互銀行法も議員立法ですが,相互銀行業は営利の目的の有無によらず,多額の金銭を相当期間預かる金融業務であるから監督の必要性が高く,監督の適正を期することが同法の目的の筆頭に掲げられていることからすれば,営利の目的の有無によらず相互銀行法で規制するべき要請が強かったといえます。

そうすると,旅行業法は相互銀行法よりも宅地建物取引業法に親和性があり,宅地建物取引業法と同様に「営利の目的」を要すると考えるのが自然です。

ウ 旅行業法制定時の議論について

さらに,旅行業法についてみると,昭和27年の旅行業の制定時(当初は「旅行あっ旋業法」として制定),提案者である石村幸作参議院議員は,提案理由として「今や国民経済も着実に復興しつつあり、これに伴い外客来訪数が増加するのは勿論、邦人の国内旅行も日に多きを加えております。このため旅行あつ旋業者の数も急激に増加し、その中には悪質業者も少くなく、各地に旅行費用の詐取、客の携帯する主食、宿泊交通費等の一部の着服等々の被害を生じ、又外客に対するあつ旋の強要、あつ旋料の不当なる要求等の好ましからぬ事件を惹起している状態であります。」(参議院運輸委員会昭27.5.22)と述べており,詐取・着服・不当要求などによって不当な利益を得ようとする悪質業者の取り締まりが目的とされていたことは明らかであり,このようなおそれのない,営利目的がない場合まで規制する意図があったとはいえません。

加えて,提案者は制定当初~国鉄民営化まで設けられていた,国を適用除外とする規定につき「本法の適用の除外でありますが、この法律は国の行う事業には適用しないことになつております。ここに国とは、日本国有鉄道をさしておるわけでありますが、かかる規定を設けたのは、国有鉄道は営利を目的とする旅行あつせん業を営むものとは認められず、本法の適用を除外しても何らさしつかえないと思料されたからであります。」(衆議院運輸委員会昭27.5.30)と説明しており,この点からも営利を目的とせず旅行あっ旋業を行う場合には,旅行あっ旋業法による規制の必要はないとみていたといえます。

エ 適用除外の規定について

なお,この適用除外の規定は国鉄民営化に際し削除されています。宅地建物取引業法には,現在も国及び地方公共団体を適用除外とする規定がありますが(宅地建物取引業法78条1項),古物営業法,質屋営業法には適用除外の規定はありません。

そうすると,適用除外の規定は確認規定であると考えられます。

つまり,適用除外の規定がなかったとしても,国や地方公共団体は当該業を行うにあたり営利の目的がないため,法的に問題はないのですが,国や地方公共団体が当該業やそれに類似した行為を行うことが予想される場合,適用除外の規定がないと,法律の解釈を行う必要が生じて面倒です。

適用除外の規定を設けておくと,国や地方公共団体に違法の疑いがかかることを避けることができますから,業法の適用の有無が実務上問題となりうるような場合に限って,適用除外の規定は設けられるものであって,国や地方公共団体が当該業を行うことが予想されない場合は適用除外の規定を設ける必要はないため設けられないものと考えられます。

旅行業法についても,国鉄は旅行業を行うことがあり,営利の目的がないため実際は適用がないものの,旅行業を行う以上は旅行業法の適用の有無が実務上問題となりえたため適用除外の規定を設け,国鉄民営化後は国が旅行業を行うことは予想されなかったため,適用除外の規定が削除されたとみられます。

また,地方公共団体が旅行業該当行為を行うことは当初から予想されなかったため,適用除外の規定は国のみであったといえます。

オ 国会答弁や運用について

旅行業法については,従前,観光庁等において,旅行業法に基づく登録義務は,営利の目的の有無を問わず旅行業を行う場合に必要となる旨の国会答弁がなされ,またそのような旅行業法施行要領が運用されてきました。

しかし,宅地建物取引業法についても,前記最決昭48.7.7集刑189-341,最決昭49.12.16刑集28-10-833の前には,営利目的の有無を問わず,宅地建物取引業を行う場合は登録を要する旨の国会答弁がされていましたし(衆議院建設委員会昭和43年5月8日),そのように運用されてきたとみられます。

それでも,最高裁において,宅地建物取引業を営むとは,営利の目的で宅地建物取引業を行うという意味である旨の判断が示されていますので,旅行業法について前記のとおりの国会答弁や運用がなされていたことから,旅行業法についても高松高裁の判断が誤りであるということはできません。

旅行業法とサマーキャンプ問題:2旅行業法をめぐる観光庁の運用の問題

2 旅行業法をめぐる観光庁の運用の問題

(1)旅行業法施行要領について

ア 旅行業法施行要領は観光庁の通達ですが,その「第1 定義(法第2条)」「1 旅行業(法第2条第1校)」の2)に「国、地方公共団体、公的団体又は非営利団体が実施する事業であったとしても、報酬を得て法第2条第1項各号に掲げる行為を行うのであれば旅行業の登録が必要である。」との記載があります。

この文言は,国,地方公共団体,公的団体又は非営利団体という通常営利を目的としない団体であっても,旅行業を行うのであれば旅行業の登録が必要であると述べているものであり,「営利の目的」の有無によらず,旅行業法3条の登録義務があると解釈しうるものです。

実際,観光庁の従前の運用は,営利の目的の有無によらず,旅行業を行うには登録の必要があるというものであり,国土交通省関東運輸局のウェブサイトには,「旅行業を行うには旅行業法に基づき,登録を行う必要があります。」との記載があり,旅行業法の文言が「営む」であるにもかかわらず,営利の目的の有無を問わないと解される「行う」だけでも登録義務があるという誤った記載がなされています。

イ たしかに,旅行業法には宅地建物取引業78条1項のような適用除外の規定はありませんから,国や地方公共団体,公的団体又は非営利団体といえども,実質的に見て営利の目的で旅行業該当行為を行っているとみられる場合には,旅行業法上の無登録営業となることは否定できません。

ウ しかし,現在の旅行業法施行要領の記載は,営利の目的の有無を問わず,旅行業該当行為を行うだけで登録義務があるという誤った解釈をさせるものです。

そもそも,国民に義務を課し,国民の権利を制限するには,国会で定められた法律によらなければならない,というのが法治主義の原則です。

そして,営利の目的なく旅行業該当行為を行う場合について,旅行業法は何ら規制するものではありませんから,法律ではない旅行業法施行要領によって,営利の目的なく旅行業該当行為を行う場合まで規制することはできません。

エ したがって,このような誤解を招く旅行業法施行要領第2の1の2)の規定は,違法のおそれがあり,少なくとも「報酬を得て」の前に「営利の目的で」との文言を追加すべきです。

 

(2)7月28日付通知について

ア 7月28日付通知とは

観光庁は,今回の一連のサマーキャンプ中止問題を受け,平成29年7月28日に「自治体が関与するツアー実施に係る旅行業法上の取扱いについて(通知)」と題する通知(観観産第173号,「7月28日付通知」といいます。)を発しました。

この通知は,旅行業法の適用につき,営利性が問題となることを指摘した点では評価できますが,旅行業法の解釈を誤ったものであり,かえって現場に混乱をもたらしかねないものであると考えます。

 

イ 問題点①=旅行業法に抵触するか否かの判断枠組みの誤り

(ア)前記のとおり,旅行業法上の登録をしなければならないのは,次の[1][4]の4要件をすべて満たす場合であって,いずれか1つでも要件を満たさないものがあれば,登録義務はありません。

 

[1]報酬を得ること

[2]同法2条1項各号の行為を行うこと

[3]事業であること

[4]営利の目的があること

 

(イ)しかし,7月28日付通知は,「自治体がツアーの実施に関与する場合のうち,下記1.のように自治体が実質的にツアーの企画・運営に関与し,かつ営利性,事業性がないものであれば,旅行業法の適用がない」とし,さらに「自治体が関与するツアーについて,実質的に企画・運営するものであることが必要である。参加費等名目を問わず参加者から徴収する金員では,収支を償うことができないこと,日常的に反復継続して行われるものでないこと,不特定多数の者に募集を行うものでないことは,営利性,事業性がないことを裏付けるものとして,当然に求められる。」としています。

この文言は,次のすべての要件を満たす場合に限り,旅行業法の適用がないという解釈であると考えられます。

 

<1>自治体が実質的にツアーの企画・運営に関与すること

<2>参加費等名目を問わず参加者から徴収する金員では,収支を償うことができないこと

<3>日常的に反復継続して行われるものではないこと

<4>不特定多数の者に募集を行うものでないこと

 

(ウ)まず,<1>の要件は,前記[1][4]の要件と無関係です。自治体が単に募集・受付・参加費の徴収等のみを行い,ツアーの企画・運営に関与しなかったとしても,旅行業に該当するというのが旅行業法施行要領の立場であり(同要領第1の2の3)(3)イ)及びハ)),まして実質的にツアーの企画・運営に関与すれば旅行業に該当することは言うまでもありません。

また,自治体が実質的に関与するかどうかによって,自治体の営利の目的の判断が変わることもありません。

したがって,<1>の要件は,旅行業法の登録義務に無関係です。

なお,ツアーにおける安全確保等の観点から,自治体が実質的に企画・運営に関与すべき要請があることは否定しません。

(エ)次に,<2>の要件は,前記[4]の要件と関係します。

<2>の要件を満たす場合,[4]について営利の目的はないといえますから,これだけで旅行業法の登録義務はないことになります。

したがって,<2>の要件は,それ単独で旅行業法の適用がないことの理由となり,他の要件は不要となります。

(オ)さらに,<3>の要件は,前記[3]の要件と関係します。

反復継続して行われるものではなく,その見込みもなければ,[3]について事業性がないといえますから,これだけで旅行業法の登録義務はないことになります。

したがって,<3>の要件は,それ単独で旅行業法の適用がないことの理由となり,他の要件は不要となります。

ただし,裁判所は単に「反復継続する意思をもって一定の行為を行う」といえるかどうかで判断しており,「日常的に反復継続」という文言が,単なる「反復継続」に比べて高い頻度を要するという趣旨であれば,旅行業法の「事業」の意義を狭く解釈する誤りがあるといえます。

(カ)最後に,<4>の要件は,前記[2]の要件と関係します。

不特定多数の者に募集を行うものでなければ,[2]の「募集」にあたりませんから,これだけで旅行業法の登録義務はないことになります。

したがって,<4>の要件は,それ単独で旅行業法の適用がないことの理由となり,他の要件は不要となります。

なお,付け加えると,7月28日付通知ではこの要件は「営利性,事業性がないこと」の裏付けであるかのように記載されていますが,これは前記[2]の同法2条1項各号の行為にあたらないことの裏付けであり,「営利性,事業性がないこと」を根拠づけるものではありません。

(キ)以上のとおり,7月28日付通知の示す4要件のうち,<1>は無関係の要件であり,<2><3><4>はいずれか1つでも満たせば,旅行業法上の登録義務はないというべきであるのに,すべてを満たす必要があるかのように記載し,さらに[1](報酬)の要件について言及していない,という誤りがあります(ただし,[1]を広く解した場合,[1]を満たさないならば[4]も満たさないと思われます)。

このように,7月28日付通知の示す旅行業法に抵触するか否かの判断枠組みには誤りがあります。それにもかかわらず,これらの各要件がすべて「当然に求められる」などとする記載は,現場を混乱させ,かえって自治体等の行う自然体験キャンプなどの活動を委縮させるものです。

 

ウ 問題点②=挙げられている例は営利性と無関係である

(ア)7月28日付通知は,「自治体が関与するツアーで認められる例」として4例を挙げています。

しかし,以下述べるとおり,これらはいずれも,営利目的の有無は問わないとする従前の観光庁の解釈を前提にしても問題のない事例ばかりであり,また適法であるとする根拠については疑問の残る例です。

なお,例のうち,「対象」は「不特定多数の者に募集を行うものでない」ものの例,「頻度」は「日常的に反復継続して行われるものでない」(事業性がない)ものの例,「形態」「参加費/回」は「参加者から徴収する金員では,収支を償うことができない」(営利性がない)ものの例,「主体」は「自治体が関与するツアーについて,実質的に企画・運営するものである」例を挙げるものとみられますので,それぞれ例として適切か順次検討していきます。

(イ)対象について(「不特定多数」でないといえるか)

4例の対象は,「市内の小中学生」「町内の小学生高学年~高校生」「市内の小学生」「市周辺居住の独身の男女」とあるところ,これは「募集」の要件に関し,これらの対象が「不特定又は多数」といえるかが問題となります。

「不特定」につき,出資法の「不特定」の意義について,所属員が相当多数であって親族・知己等といった個人的つながり等もなく、つまり個別的な認識もないような場合においては、単に一定の団体等に所属する者と限定しただけでは,特定したとはいえない,とした裁判例(福岡高判昭37.7.11判時313-26)があります。ただし,出資法は「不特定かつ多数」を要求しており,「不特定又は多数」ではありませんから、問題のある例を処罰するため、「不特定」を広く解している可能性はあります。

そうすると,多少緩やか解したとしても,同じ学校の生徒である,同じ町内会に所属しているなど,少なくとも1,2人を介することで個別的な認識を有しうるような場合でなければ,「特定」とは言い難いと考えられます。

前記の4例のうち,子どもを対象にする例は,市内又は町内に小学校が1つしかないか、複数の場合は数校にとどまりかつ相互に交流があって,人数もせいぜい数百人程度にとどまる場合であれば,「不特定」でも「多数」でもないといえるかもしれませんが,それ以外の場合には「不特定又は多数」に該当することは明らかといえましょう

また,「市周辺居住の独身の男女」は,1,2人を介することで個別的な認識を有し得るとは考えられず,「不特定」に当たる上,「市」は通常数万以上の人口を有し,その「周辺居住の独身の男女」は数千人に上ると見込まれますから,「多数」にもあたるとみられます。

以上のとおり,明らかに「不特定多数」でないといえる例はなく,「不特定多数の者に募集を行うものでないことは…当然に求められる」とする通知本文と矛盾します。

(ウ)頻度について(事業性がないといえるか)

頻度は,「年1回」と「年数回」が挙げられていますが,前記のとおり,年1回の開催であっても,それが毎年定例的に行われており,反復・継続される見込みがあれば事業性が認められる可能性は少なくないとみられ,まして年数回の場合は事業性が認められる可能性は高いといえます。

したがって,従前の裁判例に照らすと,明らかに「事業性がない」といえる例はなく,「日常的に反復継続して行われるものでないこと…は…事業性がないことを裏付けるものとして,当然に求められる」とする通知本文と矛盾します。

(エ)参加費及び形態について(営利性がないといえるか)

参加費及び形態は,バス移動+宿泊で5000円及び3000円の例,バス移動+キャンプでキャンプ代として1000円の例,バス移動+体験で昼食代+体験料として男性5000円,女性4000円の例が挙げられています。

このうち,バス移動+宿泊であれば,5000円及び3000円の参加費は,バス費用と宿泊費用を補って余りあるとは考えにくく,むしろ活動費用や食費相当額に過ぎない可能性もあります。これらの金額が活動費用や食費相当額に過ぎず,実質的にも参加費を活動費用や食費に充てる趣旨で徴収しているのであれば,そもそも運送等サービスの提供の対価を得ておらず,「報酬を得て」の要件を満たしません。また,いずれにせよ,この程度の参加費であれば「営利の目的」もありません。

次に,1000円の例は,キャンプ代として1000円はキャンプ費用として相当な金額といえますから,バス移動の費用は徴収していないといえます。この場合も「報酬を得て」の要件を満たしませんし,当然「営利の目的」もありません。

最後に,昼食代+体験料としての45000円ですが,この金額が昼食代+体験料として相当な金額であれば,バス移動の費用は徴収していないといえますから,「報酬を得て」の要件を満たしません。また,昼食代+体験料を多少超過するにせよ,バス移動の全額を賄うには足りないでしょうから,全体として参加費収入より支出の方が多いことが見込まれ,「営利の目的」はないといえます。

したがって,ここで挙げた例は,「参加者から徴収する金員では,収支を償うことができない」もので,「営利性がない」ものの例ともいえますが,そもそも営利性を問題とするまでもなく,「報酬を得て」の要件を満たさないため,従前の観光庁の運用でも適法であったとみられるものです。営利性をいうならば,「報酬を得て」の要件は満たすものの,参加費が支出を賄えないため「営利の目的」が認められない例を挙げるべきです。

(オ)主体について(自治体の関与の程度について)

主体については,教育委員会主催のほか,教育委員会が任意団体に委託,市役所が一般社団に委託という例が挙げられています。

もっとも,前記のとおり,自治体の関与の程度は旅行業法上の登録義務の有無とは関係がないため,これらの主体はかかるツアーが認められるかどうかには関係ありません。

なお,委託の例で,委託先である任意団体や一般社団が旅行業の登録をしていない場合,これら任意団体や一般社団においても旅行業法の登録義務が生じないことを確認しておくべきでしょう。任意団体や一般社団が無登録営業であったからといって,委託した教育委員会や市役所が刑事処分を受けるかどうかは事情によりますが(旅行業法違反(無登録営業)の共同正犯か教唆犯が成立することは考えられます),自治体が違法行為を助長するべきではありません。

そういった意味では,旅行業の登録をしてない株式会社を挙げなかったことは肯定的に受け止めてよいのかもしれません。

(カ)以上のとおり,「自治体が関与するツアーで認められる例」の対象及び頻度はそれぞれ,不特定多数に募集しないもの,事業性がないものの例として適切ではありません。

そうすると,これらは不特定多数に募集し,かつ事業性があると判断されるおそれのある例ですから,7月28日付通知の本文のとおり,自治体の関与+営利性なし+事業性なし+対象が不特定多数でない,の4要件がそろって初めて適法に実施しうるとすれば,これらの例はいずれも適法には実施しえない例であって,不適切です。

たしかに,旅行業法の適切な解釈に立った場合,4例はいずれも「報酬を得て」とはいえず,また「営利の目的」がないとみられるため,旅行業の登録なくして適法に実施しうるものです。

しかし,4例はいずれも今回の通知で言及された「営利の目的」を問題にするまでもなく,観光庁の従前の解釈を前提にしても「報酬を得て」の要件を欠くため適法に実施しえたものです。

より多額の参加費を徴収しており「報酬を得て」にあたるおそれはあっても,「営利の目的」が認められない程度の金額であるため適法に実施できるツアーを実施している自治体にとっては,このような少額の参加費の例だけを提示することは委縮効果をもたらすおそれがあります。

 

エ 小括

自然体験キャンプや婚活イベントといった自治体主催のツアーは教育・青少年育成や地域住民の交流など積極的な意義を有するものであり,旅行業法に抵触する場合は当然許されないにせよ,適法に実施しうるものまで委縮させることは地域住民の福祉を損ないます。

したがって,前記のとおり旅行業法の登録義務がある場合を誤って記載し,適切でない事例を載せた7月28日付通知は地域住民の福祉を損なうおそれのあるものであって,早急に旅行業法の適切な解釈に基づき,委縮効果をもたらさないような通知を発するべきです。

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