2018年6月 7日 (木)

「1週間前までに」はいつまでか?

総会や大会の案内を,「●日前まで」「●週間前まで」に送らなければならない,とあった場合,いつまでに送ればOKでしょうか。

たとえば,「1週間前まで」と言えば,前の週の同じ曜日に送れば大丈夫そうに思えます。
実際,裁判所に書面を提出する場合,「書面は次回期日の1週間前まで」と指定されることが多いのですが,それは通常前の週の同じ曜日の日のうちに提出,という意味です。

次に裁判所に行く日が6月13日(水)であれば,6月6日(水)が終わるまで(24時になるまで)に書面を提出(FAXで送る)すれば締め切りを守ったことになります。

ところが,厳密にはこれではダメなのです。例えば,一般社団法人の社員総会は1週間前までに通知を発する(発送する)必要があります。

(一般社団法人及び一般財団法人に関する法律第39条1項本文)

社員総会を招集するには、理事は、社員総会の日の一週間前までに、社員に対してその通知を発しなければならない。

この場合,前の週の同じ曜日ではなく,その前日に送らなければならないとされています。6月13日(水)が社員総会なら,6月5日(火)までに発送しないといけないのです。

一見奇妙に見えるかもしれませんが,民法の原則に従って計算すると,確かにこれで正しいのです。

社員総会の日の「1週間前までに発送」ということは,逆に言えば「発送から1週間後まで」は社員総会を開いてはいけないということです。そこで「発送から1週間後」はいつかを考えるとします。まず,

(民法第140条)

日、週、月又は年によって期間を定めたときは、期間の初日は、算入しない。ただし、その期間が午前零時から始まるときは、この限りでない。

がありますから,発送した日(例えば6月5日)は算入せず,翌日(同6月6日)からカウントします。次に,

(民法第143条)

1項
週、月又は年によって期間を定めたときは、その期間は、暦に従って計算する。

2項本文
週、月又は年の初めから期間を起算しないときは、その期間は、最後の週、月又は年においてその起算日に応当する日の前日に満了する。

を適用すると,6月6日(水)の1週間後(「最後の週」)に6日(水)に応当する日(=同じ曜日のこと)である13日(水)の前日,つまり12日(火)に期間満了となります。

ところで,期間の満了は

(民法第141条)

前条の場合には、期間は、その末日の終了をもって満了する。

とあるとおり,期間の最後の日(今回は12日)が終わったときとされていますから,12日が終わったときに「発送から1週間」が終わったことになります。

そうすると,社員総会を開くことができる「発送から1週間後」というのは,6月5日(火)発送なら13日(水)の午前0時からということになります。

この考え方については,戦前の最高裁判所にあたる大審院が昭和10年7月15日の判決で株主総会の2週間前までに招集通知を発することを求める商法156条第1項(当時)の規定について「通知書を発したる日の翌日より起算して会日迄の間に少くとも2週間の日数を存したる場合に非ざれば其の通知は違法なり」と述べ,発送した翌日から2週間は開催できないと明確にしています。

当然,「1か月前まで」は前月の1つ前の日付までとなりますし(6月7日開催なら,5月6日までに発送),「5日前まで」なら6日戻ることになります(6月7日開催なら,6月1日までに発送)。

この判決では,通知が遅れたことを理由にして株主総会の決議は違法で無効としています。1日遅れくらいと思っていると,株主総会や社員総会などの決議が無効とされ,組織運営に重大な問題を来すおそれがあります。

うっかり遅れた場合,出席できる人全員の同意を得られれば(同意を得られれば出席してもらえなくてもよい),通知が遅れても予定通り開催できる場合が多いようですが,1人でも了解が得られなければ日にちを改めて開催することになります。

完全な任意団体ならよほどのことがない限り問題ないかもしれませんが,会社や一般社団・財団法人,マンションの管理組合など,法律に根拠のある団体については特にご注意ください。

2018年4月11日 (水)

奨学金問題・「自己破産予備軍」の人数について

先日,客観的に見て,自己破産しても不思議はない人を「自己破産予備軍」と称するならば,約30万人のうち約20万人は「自己破産予備軍」と呼んでよいのではないかと書きました。

この計算根拠についてご説明したいと思います。

①延滞者のうち「破産予備軍」:122,723人

資料:

・平成28年度奨学金の返還者に関する属性調査結果([A] 概要

・平成27年度奨学金の返還者に関する属性調査結果([B] 本文

計算:

資料[A]によると,平成28年度末に奨学金返還を3か月以上延滞している者(延滞者)は160,580人(概要Ⅰ)。

3か月間も延滞をするのは破産状態を疑うべきですが,上記の調査では延滞者にも若干収入の高い人がいます。そこで,延滞者の状況に応じて返済が難しそうな人だけを「破産予備軍」とすることとします。

資料[B]の25頁には,延滞者に対して今後の返還の見通しを聞いた調査結果があります。
お金を借りている先から,「今後お金を返せそうですか?」と聞かれれば,普通の人はできるだけ「返せます」と答えるのが通常でしょうが,それでも厳しいとの回答をする人が少なくありません。

選択肢は次の6つです。

  1. 決められた月額等を返還できると思う
  2. 決められた月額等の半額程度より多く返還できると思う
  3. 決められた月額等の半額程度返還できると思う
  4. 決められた月額等の半額程度より少ないが返還できると思う
  5. 返還できないと思う
  6. わからない

このうち,3~6は予定通り返せる見込みがなさそうであるとして,「破産予備軍」とします。表5-7-1からその割合は58.52%です。

また,本人の年収とクロス集計した表5-7-2では,1・2の人たちの相当部分は実際には年収が低く,本当に返せるのか疑問があります。
そこで,返せると回答している1・2の人のうち,年収0~200万円未満までの人も「破産予備軍」とします。その割合は17.91%です。

延滞者160,580人にこれらの割合を掛けると,122,723人となります。

②返還猶予利用者のうち「破産予備軍」:50,322人

資料:

・平成28年度業務実績等報告書([C] PDF

・平成26年度業務実績等報告書([D] PDF

・平成27年度債権管理・回収等検証委員会報告書([E] PDF

計算:

資料[C]45頁より,平成28年度の一般猶予承認件数は154,249件。
「一般猶予」は,返還期限猶予のうち,教育機関在学中以外の事情で返還期限を猶予するもので,その86%は生活困窮(低収入など)です。

ただし,これは1年間の承認件数で,短期間のものなども含まれているとみられることから,平成28年度末時点で一般猶予を利用している人数に補正する必要があります。

この点は正確な資料がありません。
同調査の平成26年度版である資料[D]26頁では,一般猶予承認件数は137,561件となっており,一方で資料[E]16頁では,利用期間別の平成26年度末の「返還期限猶予制度(うち経済困難等を理由とするもの)」の数が合計92,341となっていることから,

 154,249 ÷ 137,561 × 92,341 = 103,543人

が平成28年度末時点で一般猶予を利用している人数(又は件数)となります。

さらに,しばらく返還猶予制度を利用した後,通常通り返還できるようになる人も少なくありません。この人たちの中には「破産予備軍」とまでは言えない人も少なくないでしょう。

資料[E]16頁には減額返還・返還期限猶予制度を利用した人が2年後どうなっているかを調べた調査があり,返還期限猶予制度については,51.4%の人が2年後に返還完了又は通常返還無延滞となっています。

したがって,返還期限猶予者のうち,「破産予備軍」と推計できるのは103,543 ×(100% - 51.4%)= 50,322人となります。

③減額返還利用者のうち「破産予備軍」:7,983人

資料:②に同じ

計算:

基本的に②と同様です。

資料[C]44頁より,平成28年度の減額返還承認件数は21,013件。

 21,013 ÷ 137,561 × 92,341 = 14,105人

資料[E]16頁で,減額返還制度については,43.4%の人が2年後に返還完了又は通常返還無延滞となっているため,減額返還者のうち,「破産予備軍」と推計できるのは14,105×(100% - 43.4%)= 7,983人となります。

④代位弁済のあった人=「破産予備軍」:7,910人

資料:②に同じ

計算:

「代位弁済」とは,家族親族に連帯保証人,保証人になってもらう代わりに,保証機関(一般の保証会社ではなく,公益財団法人日本国際教育支援協会が行っています)に保証料を払って連帯保証してもらった人について,一定の延滞が生ずると保証機関が代わりに日本学生支援機構に奨学金を一括弁済するという仕組みです。

一定期間延滞が続いている方がこの代位弁済の対象となりますから,基本的に全員を「破産予備軍」としてよいと思われます。

資料[C]41頁より,平成28年度中の代位弁済件数は7,910件です。

本来は過年度分の代位弁済件数をどうするかという問題もありますが,さしあたり当年度分のみとしています。

まとめ

①延滞者のうち122,723人

②返還期限猶予制度利用者のうち50,322人

③減額返還制度利用者のうち7,983人

④代位弁済を受けた7,910人

を合わせた188,938人が「破産予備軍」と推計されます。

破産への抵抗感が強いことや保証人がいると迷惑が掛けられないとして破産を避けることが多いことなどから,この人たちの多くは破産を選択していないわけですが,返還困難時の救済制度を十分整備しなければ,さらに奨学金を原因とする破産が増加するおそれがあるということは踏まえて制度を検討していく必要があるでしょう。

ただし,このうち,②③の58,305人については,機構の返還困難時の救済策である返還期限猶予制度,減額返還制度により,破産の危機に直面せずに済んでいる,と評価することもできます。

このような制度が設けられていることは機構の奨学金制度の積極面として評価してよいと思いますが,他方で,それだけでは救済しきれないのではないか,という点は指摘しなければならないでしょう。

(補足)

上では「~人」と表記していますが,機構の発表している数字は無利子と有利子を併用した場合,大学と大学院で借りた場合などにダブルカウント,トリプルカウントになっている場合があります。そのため,「~人」とは書いてありますが,このような重複してカウントされている例が含まれている可能性があることはご承知おきください。

2018年3月26日 (月)

『教育費の政治経済学』と子どもの貧困,教育の無償化

今日は「無償教育の漸進的導入」に係る公開研究会として,日本大学文理学部の末冨芳・准教授(教育行政学)を講師に「『教育費の政治経済学』と子どもの貧困,教育の無償化」と題した研究会に参加しました。

末冨先生の著書である『教育費の政治経済学』(勁草書房)は数年前に購入し,私の買った本リスト(エクセルで作ってあります)には2014年8月以前に読み終えて,かついい内容の本だという評価がされているのですが,内容にまったく記憶がないので,きっと読んだつもりになっているのでしょう。

近時,明石書店から『子どもの貧困対策と教育支援──より良い政策・連携・協働のために』という本も発行されたそうです(こちらの本の著者の一人である横井葉子さんとは,横浜で行っている勉強会でご一緒させていただいております)。

末冨先生のご指摘の中で,やはり受け止めねばならないことは,この間,子どもの貧困や教育格差の問題が指摘される中で,テストスコア(全国学力テストの成績やPISAテストの成績といった点数で評価できるもの)と家庭の社会経済的背景・社会の教育投資額の関係を比較するアプローチが広がってきたことの功罪です。

たしかに,お茶の水女子大の耳塚先生に代表されるようなテストスコアが家庭の社会経済的背景によって相当程度規定されているという調査が示されることで,相対的に不利な地位にある子どもたちへのフォローが必要であるという世論が相当程度喚起されたこと,それを受けて子どもの貧困対策法などを通じ,行政も一定の対策を講じつつあることは肯定的に受け止めなければなりません。

他方で,これらの対策の中心が,学校外教育の費用負担の軽減(典型的には塾代補助)となっていることからもわかる通り,1つには社会経済的背景の不利が子どもに不利に働く仕組みには手を付けず,対症療法的になっていること,もう1つは公教育そのものへヒトやモノを投入して質の改善を図るというものになっていないということには,気を付ける必要があります。

本来,子どもの貧困対策は総合的なアプローチであり,投資以外にも子どもの人権保障という面や次世代の社会の基盤づくりといった面があるはずですが,それらが捨象される危険性には常に気を付けねばなりません。

公立学校の教員には,子どもの貧困問題も念頭に置きながら,熱心に子どもと向き合っている先生方がたくさんいらっしゃいますが,ただ,アルマーニの制服に限らず,たとえば学校で全員に購入させる道具類(書道セット,裁縫セット,絵の具,色鉛筆,楽器など)について,その必要性の吟味や必要としたときにできるだけ廉価なものを指定するといった配慮が不十分である学校は少なからず存在するように見受けられます。
アルマーニの制服(実際は「標準服」だそうですが)についても,そもそも小学校で制服を必要とする理由に立ち返る必要があるでしょう。

末冨先生の問題提起で,このようなものがありました。

次のうち,公立中学校で必要なものはどれか?逆に,公立中学校には不要(むしろない方がよい)というものはどれか?

掃除機  アナと雪の女王のDVD  演劇シアター  iPad  朝食

3Dプリンター  任天堂スイッチ  カフェ  修学旅行  犬

日本国内で,100%とはいわないまでも,多くの人が必要だ,と答えるのはせいぜい修学旅行くらいな気がします。逆に,掃除機,DVD,演劇シアター,3Dプリンター,任天堂スイッチ,カフェあたりは多くの人からない方がよい,と言われそうですね。
みなさんはいかがでしょうか。

末冨先生は修学旅行が必要,ということには懐疑的です。あえて親に金銭的負担をさせてまで修学旅行を行う意味があるのか,という疑問からです。
私は学校外での生活体験,宿泊体験,特に日常とは異なる地の体験(旅行体験)が各家庭任せではすべての子どもに保障されないため,学校として実施する意義は十分あると考えますが,先生が指摘される通り,学校の先生方のうち,修学旅行を実施する意義(あらゆる経済状況の親がいる中で,あえて親の負担で修学旅行を実施しなければならない必要性,あるいは就学援助費で修学旅行費を支出する必要性)を十分説明できる先生方がどれほどいらっしゃるかと問われれば,頭を抱えざるを得ません。

さて,私は先日,高等教育の負担軽減を唱える立場ながら,高等教育の「無償化」に懐疑的な論考を書きましたが,末冨先生も現在言われている「無償化」には慎重論のようです。「無償化より大事/有効なことがある」と考えるからです。

ただし,私が思うのは,「無償化より前にやるべきことがある!」という意見は,政府関係者が主張すると,「無償化より前に「やるべきこと」がある,だがその「やるべきこと」もお金がかかるから慎重であるべきだ」という意味になり,結局「何もしない」あるいはお茶を濁す程度しかしない,という結論になってしまう,ということです。

なぜ末冨先生や私たちの「無償化より大事なことがある」と彼らの(そう,たいてい「彼ら」であって,「彼女ら」になることが少ない),「無償化の前にやるべきことがある」の意味が違ってくるのか,まずそこが問題ではないか思います。

2018年2月16日 (金)

奨学金問題・「自己破産予備軍」

昨日(2018.2.14)付朝日新聞の奨学金特集に私のコメントが載りましたので,「自己破産予備軍」について若干の解説をしておきます。

「自己破産」は,自ら申し立てて裁判所で破産手続を開始してもらうことですが,誰でもできるわけではなく,一定の要件を満たさなければ破産手続を始めることができません。

破産法15条
1項 債務者が支払不能にあるときは、裁判所は、第30条第1項の規定に基づき、申立てにより、決定で、破産手続を開始する。
2項 債務者が支払を停止したときは、支払不能にあるものと推定する。

このように,支払不能,つまり債務者(お金を借りた人)が借金を払えない状態になった場合に破産手続を開始することでき(1項),支払停止,つまり債務者が借金の返済をストップしたときは,払えるけど返さないのではなく,払えないものと考えて,特に反対の事情がなければ破産手続を開始する(2項)とされています。
※なお,会社などの法人は,債務超過(預貯金や売掛金などのプラスの財産より,借金や買掛金などマイナスの財産の方が多いこと)の場合も破産手続を開始できますが,個人の場合は借金の方が多くても,返済計画通り払えるなら破産できません

そうすると,奨学金の返済を延滞しているというのは支払停止ですから,借金を返せない状態であると推定され,破産手続を開始する要件を満たします。
1回延滞しても単に銀行の残高が足りなかっただけかもしれませんが,3か月以上の延滞はさすがに返済が止まっているといえますから支払停止にあたり,破産手続を開始しうると考えてよいでしょう。
返還猶予や減額返還制度を利用している方も,予定通り返済することができないために返還猶予や減額返還制度を利用しているわけですから,支払不能と考えてよいでしょう。

2016年度末でみると,返還猶予制度利用者は約15万人(在学猶予を除く),減額返還制度利用者は約2万人です。ただし,高校と大学の両方で借りた人などは2人としてカウントされているので,実際はある程度減り,3か月以上延滞者16万人を加えて28~29万人程度でしょうか。

もちろん,返還猶予や減額返還を利用することで破産を回避し,1~数年して当初の計画通りの額を返せるようになる人も少なくありませんし,延滞者の中にも自宅を所有しているなどの理由で破産を選択しない(自宅を売却して返済したり,民事再生手続を利用するなど)方もいらっしゃいますから,約30万人がすべて「自己破産予備軍」になるわけではありません。
しかし,客観的に見て,自己破産しても不思議はない人を「自己破産予備軍」と称するならば,約30万人のうち約20万人は「自己破産予備軍」と呼んでよいでしょう。

ただし,忘れてはならないのは,機構の返還猶予制度・減額返還制度を利用している方は,これらの制度によって自己破産をせずに済んでいる,という面もあるということです。そういった意味で,機構の救済制度は一定の役割を果たしています。
しかし,返還猶予制度は原則10年が上限とされています。2014年に延長されるまでは5年が上限でしたから,増えた5年分を使い果たす2019年には引き続き低収入なのに返還猶予制度を利用できず,延滞に陥って自己破産を選択する人が急増するおそれがあります(なお,過去に遡って返還猶予を利用している場合は,既に使い果たしている可能性もあります)。
大学を卒業したのに年収が300万円(返還猶予の目安金額)に達しない状態が継続するというのは,およそ大学を卒業したものの,経済的には大卒の利益を享受していないということであり,そのような方にも厳しく返還を迫ることが合理的なのかどうかは疑問があります。

イギリスやオーストラリアでは,年収が低額(300~480万円以下)の場合は自動的に返還を猶予し,長年低所得が継続すればそのまま残債務は免除するという仕組みになっています。高等教育を受けることで経済的にも利益を得たのであれば,そのうち学費見合いの分は返してもらうが,経済的に利益を得なければ返さなくていいよ,という考え方です。
21世紀は知識基盤社会と呼ばれるように,産業が高度化し,一握りの「優秀」な人間だけが大学に通えば社会が発展するという時代ではありません。一握りの「優秀」な人間を育てることも大事ですが,それにもまして多くの人々が高等教育を通じてさまざまな能力・スキルを身に付けなければ,国際競争に後れを取ってしまうという時代です。
そのような時代には,カネのことは心配せずに進学せよ,という仕組みを構築しなければなりません。結果,経済的にも成功した人から応分の負担を(税という形か,奨学金の返還という形かは別にして)いただくことはありうるにせよ,学費を払えないとか,将来奨学金を返せないかもしれないとかいったことで進学を躊躇させるようなシステムは21世紀にふさわしくない,と考えています。

2018年2月 9日 (金)

お金がない人にあげる奨学金よりお金がある人にあげる奨学金の方が大事!?

文科省に「高等教育段階における負担軽減措置に関する専門家会議」という会議が設置されたそうです。
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/koutou/086/gijiroku/1400886.htm

住民税非課税世帯の子どもが大学や専門学校に進学しようとするときの経済的支援を拡大しようと言うことで、それを具体的に詰めていく会議なんだそうです。
メンバーは県知事1名、国立大学長1名、私立大学長1名、専門学校関係1名(全国各種学校専修学校総連合会常任理事)、高校PTA連合会相談役1名、学識経験者らしき大学教員も1名いますが、公共経済学が専門で、学生に対する経済的支援が学生の進学にどのような影響を及ぼすかを分析する教育社会学や教育経済学の専門家がいません。
高校PTA連合会の方も夫が県議を長く務めた後で町長になられた方だそうで、貧困世帯の子どもの進学について当事者性は見出せません。
このような会議で地に足のついた議論ができるのか甚だ疑問です。せめて国立大の学長くらい東京工業大ではなく地方大学にすればいいのに。

さて、資料5に高等教育進学をめぐっての資料がいろいろ入っています。なかなか有用です。

ただ、13頁をみると、私学助成で130億円(平成30年度予算案)を私大の行う授業料免除などの支援に使っています!と書いてあるのですが、詳しく見ていて驚きました。

「1.授業料減免事業等支援」は「経済的に修学困難な学生に対し、授業料減免等の事業を実施している私立大学等」ということで、主にお金がない学生への支援であり、「所要経費の1/2以内で支援」、つまり、経費の半分まで予算の限りで出しますよ、という形です。

他方、「2.各大学における特色ある経済的支援策」の「(1)卓越した学生への経済的支援」は「成績優秀者等への授業料減免等を実施している私立大学等」ということで、お金がある学生でも成績が良ければ支援します、というものです。ところが、「所要経費の2/3以内で支援」、つまり、お金のない学生が対象だと50%が上限なのに、成績のいい学生が対象だと66%(2/3)まで出すと言うのです。

統計データを出すまでもなく、お金のない学生は授業料を免除してもらっても、生活費を稼がないといけませんから、アルバイトをせざるをえない学生が大半で、予習や復習の時間は限られます。
それに対し、家庭に経済的な余裕のある学生は親が授業料も生活費も出してくれるので、勉強時間がたっぷりあります。
この人たちを同列に競争させて、成績が良かった方に授業料を免除します、という制度を作ったら、お金持ちの家庭の学生が授業料免除を受ける可能性が高いことは明らかです。家計状況を無視して成績だけで決めるのは、そもそも平等な競争ではないのです。

大学が自己資金でこのような制度を作るのは自由かもしれません(私は自己資金でも問題があると思います)。
たしかに「優秀」な学生がほしい、学生をお金で釣ってでももっと勉強してほしい、という気持ちは分からないではありません。卒業生に知名度の高い企業や公務員に就職してもらわないと入学者が集まりませんから。

しかし、このような不公平な競争を「特色ある経済的支援策」などとして、お金のない学生を応援するよりもたくさん補助金がもらえる仕組みを作ることは間違っているのではないでしょうか。

たしかに、お金がなくても意欲と能力さえあれば高等教育を受けられる仕組みを作るということと別に、特に高い能力をもつ「卓越した学生」を養成する必要はあるでしょうし、そのような「卓越した学生」が公費で学ばせてもらったから社会に恩返しをしよう!というふうに動機付けする仕組みがあればなおよいでしょう。
ただ、そのような学生の養成を日本中の大学で行う必要はありません。旧帝大などごく一部の大学で行えば十分と私は考えています。各大学の中で「卓越した学生」が必要なのではなく、同世代の中で「卓越した学生」が必要なのです。
それ以外の多くの大学・専門学校は、広く高等教育を保障する役割を担うべきでしょう。
この助成を利用している大学名を知りたいものです。

手を洗う時間も労働時間です(ラーメン屋さんとタイムカード)

先日、昼食を食べに事務所近くのラーメン屋さんに入りました。
注文した後店内を見回していると、厨房の入り口に置いてあるパソコンに

「打刻は業務中!身だしなみ整え 手指消毒後」

と貼ってありました。

しかし、手指消毒をする時間は労働時間ですし、身だしなみについてもエプロンをつけるなど業務上必要な部分は労働時間となりますので、出勤のタイムカードを打ったあとしかお給料を払っていないとすれば賃金の一部が未払い(違法)となります。

「労働時間」はお給料が払われる時間ですが、どこまでが「労働時間」に入るのかをめぐって裁判所で争われた事例はたくさんあります。最も基本的な判例が三菱重工長崎造船事件です。

①労働基準法32条の労働時間とは、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいい、右の労働時間に該当するか否かは、労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるか否かにより客観的に定まるものであって、労働契約、就業規則、労働協約等の定めのいかんにより決定されるべきものではない
②労働者が、就業を命じられた業務の準備行為等を事業所内において行うことを使用者から義務付けられ、又はこれを余儀なくされたときは、当該行為を所定労働時間外において行うものとされている場合であっても、当該行為は、特段の事情のない限り、使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができ、当該行為に要した時間は、それが社会通念上必要と認められるものである限り、労働基準法上の労働時間に該当する
(最高裁判所平成12年3月9日判決民集第54巻3号801頁)

ざっくり言えば、労働者の行為が会社に言われたから行っているといえる場合は労働時間である、出勤後に着替えや手洗いなどをしないといけないなら、それは原則として労働時間ですよ、といっているわけです。

ラーメン屋さんなどの飲食店では、出勤後にエプロンを付けないといけませんし、手を洗わないといけません。エプロンを着て通勤したり、手を洗わずに仕事を始めるのは衛生上問題がありますよね。
したがって、身だしなみを整える時間(エプロンを着るなど業務上必要なもの)、手指消毒の時間は、いずれも労働時間となりますので、賃金が支払われることとなります。

私が行ったラーメン屋さんは、エプロンを着て手を洗って消毒をしてから、出勤のタイムカードを打刻するルールにしています。シールを見る限り、おそらくこのラーメン屋さんはタイムカードを打刻してからの賃金しか払っていない(エプロン着用や手を洗う時間の賃金を払っていない)とみられます。
せめてエプロンを着て手を洗うのに必要とみられる合理的な時間を、タイムカードで計算された勤務時間に加算して賃金を支払うべきでしょう。

なお、衛生面からみると、パソコン(のキーボード)をちゃんと消毒しているならいいですが、そうでないとするとせっかく手を洗って消毒したのに、清潔ではないパソコンを触ることになります。
また、手を洗う時間について実時間に応じた賃金が支払われないとすると、さっさと適当に手を洗って済ませてしまうのではないか、という懸念も生じます。

いずれにせよ、飲食店として衛生面を考慮すれば、出勤の打刻をしてから、ちゃんと手を洗ってもらう(あまりに長く手を洗っている場合は上司が注意して止めさせる)ことで、法律をきちんと守り、かつ、お客さんにも安心して利用してもらえるのではないでしょうか。
エプロンを着て手を洗う時間はせいぜい数分です。それをあえて法律違反かつ衛生上問題のある方法でケチるよりも、もっと節約できるところはあるはずです。

2017年12月22日 (金)

1か月分タダ働き?(横綱への給与不支給について)

大相撲の暴行事件をめぐって,横綱2名に対し,1月の給与不支給の処分がされるそうです。
暴行事件やその後ゴタゴタにコメントする気はありませんし,力士の場合は相撲部屋に所属力士数に応じてお金が出ているため,それで横綱が生活に困るわけではないようです。

しかし,普通の勤労者にとって,1か月分の給与を1円ももらえないとなると生活に重大な影響がありますから,非常に重い制裁です。
悪いことをして出勤停止になればともかく,1か月普通に仕事をしながら給与はゼロといわれると辛いですね。

そこで,労働基準法91条は次のように減給の上限を決めています。

就業規則で、労働者に対して減給の制裁を定める場合においては、その減給は、一回の額が平均賃金の一日分の半額を超え、総額が一賃金支払期における賃金の総額の十分の一を超えてはならない。

平均賃金は,3か月間にもらった賃金を3か月間の日数(休日を含む)で割った額ですから,残業代等を含めて月給が30万円であれば,平均賃金は約1万円になります。
その場合,減給の上限は1回につき平均賃金の半額である約5000円まで,1か月の間に複数回減給されたとしても,その合計額は月給の10分の1である3万円まで,と制限されることになります。
当然,1か月分の給与をゼロにするということは許されません。

ただし,これは働いたのに給与を払わない,という場合です。
出勤停止処分であれば,そもそも働いていませんから給与は発生しません。
なお,上記いずれの制裁も,減給や出勤停止をするだけの処分理由が認められなければ許されません。
減給や出勤停止は解雇ほどではないものの相当に重い制裁ですので,それに見合った処分理由が必要となります。

もし,従業員間で酒席での暴行事件があったとしても,大相撲にならって1か月間タダ働きだ!と処分すると大変なことになります。暴行の程度や経緯,反省状況等に照らして,減給はそもそも許されないという場合もありますし,仮に減給がやむを得ないとしても平均賃金の半額を除いた額は支払い義務が残ります。
さらに,労働基準法91条違反の減給には刑事罰が用意されています(同法120条により30万円以下の罰金)。

ちなみに,労働基準法は「労働者」にしか適用されません。
労働基準法にいう「労働者」とは,「職業の種類を問わず、事業又は事務所に使用される者で、賃金を支払われる者」をいいます(同法9条)。
もっとも,実態は「労働者」なのに,契約の形式上は「労働契約」以外の契約になっているなど,「労働者」といえるのかどうかが問題となる例は昔から少なくありません。

大相撲の力士は日本相撲協会と「力士所属契約」という契約をしているそうですが,これが労働契約なのかどうかが争われた事件は複数あります。

○東京地裁平成24年5月24日判決(判タ1393-138)
無気力相撲を理由に解雇された元十両の事案です。
無気力相撲による解雇は有効であるとして,力士所属契約の性質について判断せずに元十両敗訴としました(控訴後も結論は同じ。)。
労働契約の方が解雇は厳格に判断されるため,仮に労働契約であるとしても解雇が有効なのであれば,力士所属契約が労働契約でなかったとしてもやはり解雇(契約解除)は有効である,という論法です。

○東京地裁平成22年4月19日判決(判タ1346-164)
大麻使用を利用として解雇された元幕内・元十両力士の事案です。
これも大麻使用を理由とした解雇は有効であるとして,力士所属契約の性質について判断せずに元力士敗訴としました。

○東京地裁平成25年3月25日判決(判タ1399-94)
無気力相撲を理由に解雇された元幕内力士の事案です。
裁判所は力士所属契約は典型的な雇用契約でも準委任契約でもなく,「有償双務契約としての性質を有する私法上の無名契約」であると述べ,相撲協会の定めた懲罰規定にしたがって解雇の有効性を判断していますが,それにあたっては労働契約における解雇についての考え方を考慮すべきとしています(結論は解雇無効)。

○東京地裁平成25年9月12日判決(判タ1418-207)
野球賭博問題で解雇された元大関の事案です。
裁判所は力士所属契約は「準委任契約と労働契約の双方の性質を有する無名契約である」として労働契約の性質を有することを認めつつ,労働契約の性質が強いとしても,懲戒解雇は有効であるとしました(元大関が敗訴,控訴審も同じ)。

○東京地裁平成23年2月25日決定(労判1029-86)
親方に引退届を提出された幕下力士の事案です。
幕下力士は「有給」とされていますが,「本場所手当」(1場所15万円)しか支給されていないことなどを考慮して「労働契約」ではないと判断しました(結論としては準委任契約類似の契約であるが,力士から引退の申出があったとは認められないとして,契約の継続を認めました。)。

以上のとおり,明確に労働契約と認めた例はありませんが,東京地裁平成25年9月12日判決が労働契約の要素を有するとしていることからすると,労働基準法が適用される可能性がないとはいえません。
そういった意味では,初場所のある1月に給与不支給とするのは,仮にそれだけの重大事案であるとしても,労働基準法91条違反の可能性がありうるのではないでしょうか。

2017年11月30日 (木)

無賃乗車と逮捕(別件)

先日,キセル乗車と逮捕について書きましたが,今度は無賃乗車した本人が逮捕されました。

品川駅(東京都港区)から博多駅(福岡市博多区)まで新幹線に無賃乗車したとして、福岡県警は29日、住所不定、無職の男を鉄道営業法違反(無賃乗車)の疑いで逮捕し、発表した。「間違いです」と容疑を否認しているという。
博多署によると、男は29日、JR品川駅から東海道・山陽新幹線のぞみ号に乗り、運賃を支払わずに博多駅まで乗車した疑いがある。
博多駅到着前、車掌が車内改札で男が切符を持っていないことに気づき、精算するよう求めたが黙ったまま応じなかったため、博多駅を通じて警察に通報した。「品川では改札口を突っ切った。新幹線に乗りたくなった」と話しており、所持金は10円だったという。(朝日新聞17.11.30付)

先日書いた通り,鉄道営業法違反(無賃乗車)だけで逮捕されることは例外的なのですが,今回の男性は「住所不定」だったため,逮捕が可能なパターンでした。

ところで,無賃乗車が詐欺になるには,人間を誰か騙す必要があるのですが,今回は「改札口を突っ切った」そうですので,どうやって突っ切ったのかは別として,駅員さんを騙したといえるかは微妙です。
また,車掌さんにニセモノの切符を見せたとかいった事情もありませんから,車掌さんを騙したとはいえないでしょう。
そうすると,この男性は詐欺にならない可能性も十分ありそうです。
方法次第では詐欺(未遂)罪もありえますから,どうやって「改札口を突っ切った」のか,気になります。

2017年11月25日 (土)

キセル乗車と逮捕

アイドルファン仲間の「キセル乗車」を手助けして逮捕された件がニュースになっています。

アイドルファン仲間の「キセル乗車」を手助けしたとして、警視庁は、私立大学3年の男を建造物侵入の疑いで逮捕し、24日発表した。「今までに150回くらいやった。追っかけファンのネットワークがあり、キセルの手助けができる人は全国に数百人いる」と述べているという。
保安課によると、逮捕容疑は9月17日午後1時すぎ、知人=鉄道営業法違反(無賃乗車)容疑で書類送検=の無賃乗車を手助けする目的で入場券2枚を購入し、JR東京駅構内に侵入したというもの。2人はアイドルグループAKB48やHKT48のファンで、共通のファン仲間を通じて知り合ったという。
知人は岡山駅の改札を入場券を使って通り、新幹線に乗車。東京駅で降車して大学生の男と落ち合い、男が購入した入場券を使って改札を出ようとしたが、駅員が気づき、キセルが発覚した。

(朝日新聞17.11.24付。ブログの記事のほうが長く残るので年齢と住所は削除)

無賃乗車も岡山~東京間だとかなり高額になりますし,まして無賃乗車を助けるネットワークを作っていたとなるとかなり悪質ですから,他の仲間への警告の意味もあって逮捕して発表したのでしょう。

ところで,無賃乗車した本人と,手助けした仲間ではどちらが悪いでしょうか。
両方悪いのは当然ですが,無賃乗車に限ってみれば無賃乗車で利益を得たのは本人であって,仲間は捕まるリスクがあるのに特に利益を得ていませんから,本人の方が悪そうです。
法律用語で,犯罪を自ら実行する人を「正犯」,正犯の犯罪を幇助(「ほうじょ」。手助けの意味)するだけの人を「従犯」といいます。
従犯の方が基本的に刑は軽くなります(刑法62条,63条,68条)。

・本人→無賃乗車の正犯
・仲間→無賃乗車の幇助[従犯]

しかし,今回は少し様子が違います。

・本人→鉄道営業法違反(無賃乗車)で書類送検
・仲間→建造物侵入で逮捕・公表

無賃乗車には鉄道営業法29条でちゃんと罰則がありますが,実はその刑罰は50円以下の罰金又は科料となっています。
「えっ?無賃乗車しても罰金50円で済むの!?」と思ったら大間違い。
古い法律で罰金の額が見合わない刑については,罰金等臨時措置法という法律が用意されており,罰金の最高額が2万円未満の場合は,最高額が2万円に引き上げられています。
それでも2万円以下の罰金となると,住所不定でない限り,原則として逮捕されません(刑事訴訟法199条1項)。
無賃乗車した本人は,逮捕もされないわけです。

それに対して,建造物侵入は3年以下の懲役又は10万円以下の罰金となっており,決まった住居があっても逮捕できますから,今回は本人ではなく仲間が逮捕されてしまったわけで,ちょっとバランスが悪い気もします。

・本人→2万円以下の罰金又は科料
・仲間→3年以下の懲役又は10万円以下の罰金

もっとも,無賃乗車は駅員さんや車掌さんをうまく騙さないと途中で発覚してしまいますから,今回の場合は詐欺罪(10年以下の懲役)にあたる可能性が否定できません。
鉄道営業法違反に比べると,誰をどうやって騙したのか特定する必要があるため,とりあえず鉄道営業法違反にしてあると思われますが,詐欺罪になれば罰金では済みませんし,罰金刑でも犯罪として前科になりますから,絶対に無賃乗車はやめましょう。

※無賃乗車が詐欺にあたるかどうかに加え,仲間の行為が本当に建造物侵入にあたるのか,ならば本人はなぜ建造物侵入ではないのか,といったあたりも法律的には興味深い論点ですが,今日は時間がないので割愛します。

2017年11月 9日 (木)

選挙とお茶・コーヒー

解散・総選挙ということになってから突然忙しくなってしまい,しばらく更新していませんでした。

総選挙も終わったところで,私は弁護士の前は代議士秘書(政策秘書)をしておりましたので,選挙のこぼれ話も少し書いておこうかなと思います。

今日のテーマは選挙とお茶・コーヒー。
選挙事務所では,お客さんにお茶を出すことはできても,コーヒーは出してはいけない,ということになっていることをご存知でしょうか。
気になる候補者がいて,選挙事務所に顔を出したとき,出されたお茶を飲むのはOKですが,コーヒーが出されたら飲んではいけません。お酒はもちろんダメです。


選挙に際して,いわゆる「買収」が違法であることは皆さんご存知だと思います。
当然,選挙にかかわるスタッフも,少しでも心掛けのある事務所であれば,一緒に食事をしても割り勘を徹底しています。

「買収」は公職選挙法221条1項に規定があり,1号の

「当選を得若しくは得しめ又は得しめない目的をもつて選挙人又は選挙運動者に対し金銭、物品その他の財産上の利益若しくは公私の職務の供与、その供与の申込み若しくは約束をし又は供応接待、その申込み若しくは約束をしたとき」

など,6つの行為のいずれかに該当すると,懲役刑・禁錮刑(いずれも3年以下),罰金刑(50万円以下)を科されることがあります。
なお,買収をした人が候補者であった場合や多数の人を買収した場合など,さらに刑が重くなることもあり,さらに買収で受け取った金銭などは没収されます(同法224条)。

これに関して,公職選挙法139条は「飲食物の提供の禁止」を定めており,

「選挙運動に関し」「飲食物(湯茶及びこれに伴い通常用いられる程度の菓子を除く。)を提供すること」

を禁止しています。
例外は,上のカッコ内にある「湯茶及びこれに伴い通常用いられる程度の菓子」と選挙運動員に対する弁当(ただし数量限定)だけです。

単に事務所に顔を出しただけであれば選挙運動員ではありませんから,飲食できるのは「湯茶及びこれに伴い通常用いられる程度の菓子」に限られます。
そして,お茶はこの「湯茶」に含まれますが,コーヒーは「湯茶」に含まれないと解釈されています。
さらに,「菓子」もなんでもいいわけではなく,「これに伴い通常用いられる程度の」とありますから,お茶請け程度のものに限られるということになるのです。


そうしますと,お茶を出すのは適法,コーヒーを出すのは違法となります。

そして,事務所の方はお客さんに,1票入れてもらいたい,又は友人・知人に投票するよう声をかけてもらいたいと考えて接待するのが通常でしょうから,コーヒーを出した事務所の方は公職選挙法221条1項1号の「当選を…得しめ(る)…目的をもつて選挙人…に対し…物品…の供与、その供与の申込み…をし又は供応接待、その申込み…をしたとき」にとして買収罪にあたる可能性が高いといえます。

お客さんの方も要注意です。公職選挙法221条1項4号には

「第一号…の供与、供応接待を受け若しくは要求し、第一号…の申込みを承諾し…たとき」

とありますから,買収を受けた人も,買収した人と同様に処罰されてしまう可能性があります。
したがって,お客さんの方も,コーヒーを飲んではいけません。
付け加えると,「要求」も処罰対象ですから,選挙事務所でコーヒーをくれとか,ジュースをくれとか,お菓子にケーキを出せとか要求することもダメです。

コーヒー1杯で警察が現実に検挙するかはわかりませんが,法律上はダメですから注意してください。

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