2018年11月 2日 (金)

奨学金保証人への過大請求問題

奨学金制度を実施する日本学生支援機構が、保証人に対して本来は残債務の2分の1しか請求できないのに、全額を請求している問題を朝日新聞が取り上げています。
なお、この問題、当事者の方がいらっしゃいましたら、遠慮なくご相談ください(詳細は最後に)。

奨学金、保証人の義務「半額」なのに…説明せず全額請求
(諸永裕司、大津智義、2018年11月1日05時26分)

国の奨学金を借りた本人と連帯保証人の親が返せない場合に、保証人の親族らは未返還額の半分しか支払い義務がないのに、日本学生支援機構がその旨を伝えないまま、全額を請求していることがわかった。記録が残る過去8年間で延べ825人に総額約13億円を全額請求し、9割以上が応じたという。機構の回収手法に問題はないのか。

機構は奨学金を貸与する際、借りた本人が返せない場合に備え、連帯保証人1人(父か母)と保証人1人(4親等以内の親族)の計2人が返還義務を負う人的保証か、借りた本人が保証機関に一定の保証料を払い、返せない時に一時的に肩代わりしてもらう機関保証を求める。最近は半分近くが機関保証を選んでいるが、約426万人の返還者全体でみると7割近くが人的保証だ。

法務省によると、この場合、連帯保証人は本人と同じ全額を返す義務を負うが、保証人は2分の1になる。民法で、連帯保証人も含めて複数の保証人がいる場合、各保証人は等しい割合で義務を負うとされるためだ。「分別の利益」と呼ばれる。

 しかし機構は、本人と連帯保証人が返せないと判断した場合、保証人に分別の利益を知らせずに全額請求している。その際、返還に応じなければ法的措置をとる旨も伝えている。機構によると、2017年度までの8年間で延べ825人に全額請求した総額は約13億円で、9割以上が裁判などを経て応じた。機構は本人が大学と大学院で借りた場合などに2人と数え、「システム上、正確な人数は分からない」としている。(後略)

ちなみに私のコメントも載りました。

「分別の利益」知らせず奨学金を全額請求、専門家は批判

(前略)識者の間でも回収が重要であることに異論はない。ただ、その手法に対して、取材した専門家からは批判の声があがっている。

(中略)奨学金問題対策全国会議事務局次長の西川治弁護士は「今後、すでに返した半額分の払い戻しや減額を求める保証人が出てくれば、訴訟になる可能性もある」とみる。

要するには日本学生支援機構の奨学金では、本人と連帯保証人は全額返す義務があるものの、保証人は本人も連帯保証人も返せないときに、残債の2分の1だけ返す責任がある、ということです。

しかし、保証人の大半は、自分が法律上、2分の1しか返す義務があると知らないでしょう。日本学生支援機構はそれに付け込んで、全部返すように請求書を送り、挙句、裁判所でも全部返してくれと言っているのです。

「分別の利益」は、ほかに保証人(ここでは連帯保証人のこと。)がいれば、保証人の意思にかかわらず当然に認められるものです(もちろん、保証人が分別の利益を知りつつ、本人や連帯保証人が破産したり、延滞金を払わされたりするのはかわいそうだと考えて、全部支払うのは問題ありません)。

機構は、「抗弁」であると言い訳しています。
「抗弁」というのは、証拠がなく、裁判所が本当かどうか分からないときに、裁判所が借金を返せ、という側に有利な結論を書いていいというものをいいます。

代表例は、「弁済の抗弁」です。これは「借金はもう返したよ」というものです。裁判所では、証拠上、借金を返済したかどうか分からない(領収証がないときなど)と、「借金は返済されていない」(借金を返せ)と判断されてしまうのです。

借金取りが、実際には本人からお金を返してもらっているのに、それを黙って保証人にお金を返してくれ、と請求した場合、たとえば本人が行方不明になっていて、保証人がお金を返した証拠を出せないと、「保証人は全部返せ」という判決が出てしまうのです。

しかし、これは「詐欺」でしょう。

「抗弁だから問題ない」という機構や文科省の言い訳は、上のような本人から返してもらったのに、それを黙って保証人からお金を二重に取り立てる借金取りも「問題ない」と言っているのと同じなのです。

保証人の中にも、本人や連帯保証人を破産させるのは忍びないとして、法律上払う義務があるかどうかは脇に置いて、払ってくれる人もいるかもしれません。
しかし、日本学生支援機構としては、保証人に対し「あなたは保証人なので、全部払ってください」と言って保証人が全額支払わないといけないかのように請求するのではなく、「あなたが払わないといけないのは2分の1ですが、本人や連帯保証人も大変そうですし、奨学金事業を続けるためにも全部払っていただけないでしょうか?」とお伺いを立てるのが筋でしょう。

日本学生支援機構は独立行政法人であり、このような公的機関から「全部払ってくれ」と請求書がくれば、全部払わないといけないと誤解してしまう人が大半でしょう。
機構は、そのように誤解することを予想しながら、全額の請求書を送りつけ、全部支払わせているわけです。

私は、これを「過大請求」といっていいと思いますし、「詐欺」にすらなりかねないと考えています。

奨学金事業は、大事な事業です。
多くの学生を経済的に支援するため、1円でも多く回収したいということは、それ自体ダメだとは思いません。
しかし、保証人の善意を頼るのは構いませんが、保証人の法的知識の乏しさに付け込んで、騙すような形で無理やり回収することは許されないですし、奨学金事業に対する信頼性にも関わると考えています。

全額を請求された保証人の方がいらっしゃいましたら、ぜひご連絡ください(Tel 045-222-4401)。
法律家として、いろいろ考えていますが、支払ったうち、残っていた債務の半分を超える部分は取り戻せると考えています。
何より、このような不誠実な機構のやり方を是正させるには、国会での追及と裁判しかないと思います。
どちらの方法であれ、実例がないとできません。
ぜひご一報ください。

2018年10月29日 (月)

東京芸術大学が授業料値上げを発表

東京芸術大学が授業料を20%(107,160円)値上げすると発表しました。

東京藝術大学では、世界で活躍できるトップアーティストの育成を強力に促進するため、授業料の増額改定により、教育研究体制・サポート環境を拡充します。

1.授業料改定の時期・内容
 2019年度以降の学士課程および大学別科入学者、2020年度以降の大学院課程(修士課程・博士後期課程)入学者に係る授業料を、現行の年額535,800円から20%(107,160円)引き上げ、年額642,960円とします。
 これによる収入は、本学が世界の一流芸術大学と伍して行くための教育研究の高度化や、トップアーティスト育成の中核をなす「実技指導」の重点強化等に充当し、学生たちに還元します。
※ 2018年度以前に入学した学士課程および大学別科の学生、2019年度までに入学した大学院課程の学生については、当該課程に在学している期間は、2019年度以降も現在の授業料のままです。

2.学生の経済的支援の充実
 本授業料の引き上げにより教育の機会均等の確保が損なわれないよう、大学の自己収入などの財源を用いて、次の手当てを講じます。
 ① 引き上げ額を含めた授業料の減免の実施
 ② 経済的な理由で修学困難な学生に対する「修学支援奨学金(給付型)」を新設

同大学ウェブサイトより

もちろん,そもそも値上げしていいのかという疑問もありますが,東京工業大学の場合に比べると,「1.授業料改定の時期・内容」と並んで,「2.学生の経済的支援の充実」をきっちり書いていること,引き上げ部分も含めて授業料減免を行うこと明記した上,別建てで給付型奨学金の新設も書いてある点(しかも,「経済的な理由で修学困難な学生に対する」と対象を明記)は評価できます。
ただし,一見すると授業料減免の対象者は従前の規模を維持するように見えますが,授業料減免の対象となる部分に引き上げ額も含まれることが書かれていあるだけで,授業料減免の対象者を維持するかどうかは書かれていませんし,給付制奨学金の規模・金額も不明です。

この記事を書くため,東京芸術大学の大学概要2018を確認していたら,懐かしい名前を見つけました。
東京芸術大学の「理事(総務・財務・施設担当)・事務局長」であるK氏です。
※K氏は一応私人と思われるので,イニシャルにしておきます。リンク先を見れば載っていますが。一番経歴がたくさん書いてある方です。後述のS氏も同じです。S氏は大学に自分だけの経歴ページまでありますが,ここに書くと退任後まで名前が残るのでやめておきます。

同氏は文科省の官僚であり(国立大学法人の財務担当理事兼事務局長は文科省出身者が就くことが少なくありません。),平成18年2月~21年4月まで日本学生支援機構政策企画部長だった方です。
ちょうど日本学生支援機構が奨学金の延滞対策を強化した時期にあたり,2008.10.5のNNNドキュメント'08「貧困社会ニッポンの教育」や2009.2.9のNHKニュースなどで機構の延滞対策強化策等について説明していました。

ちなみに,先に授業料値上げを発表した東京工業大学の財務担当理事・副学長・事務局長を調べたところ,S氏でした。

S氏も文科省出身ですが,なんと!2004.7~2006.2まで日本学生支援機構の企画部長を務めていらっしゃいます。つまり,K氏の前任者。
2013.8~2016.4の九州大学 理事・事務局長時代には,日本学生支援機構が主催か後援かしていた国際シンポで日本の奨学金はただのローンではない,"scholarship loan"と呼ぶべきだという提案(※)をしていた方です。

今回の両大学の授業料値上げ,意外なところにつながりがありますね。
もちろん,ご両人が値上げを主導したかどうかわかりませんし,一応日本学生支援機構にいた方ですから,値上げするにせよ学生の経済的負担を軽減するための対策を何か入れましょう,と学内で頑張ってくださっていることを願っています。

ちなみに,東京芸術大学の在学者は学部約2000人,大学院約1300人(同大学大学概要2018)。
仮に授業料免除率を10%とすると,増収額は約3.2億円となります。

国立大学は「特別の事情があるとき」に限って授業料を標準額(535,800円)より高く設定することが認められています(国立大学等の授業料その他の費用に関する省令10条)。
両大学には,ぜひ値上げによる増収額をどう使ったのか,それが「特別の事情」にあたるということをウェブサイトに載せるなどして明らかにしてもらいたいところです。

※"scholarship loan"・・・"scholarship"(スカラシップ)は返還不要の給付制奨学金を意味し,"loan"(ローン)はいうまでもなく返還が必要なものをいう。これをくっつけると…返さなくていい奨学金ローン?いえいえ,日本の「奨学金」は基本返さないといけません。

2018年9月13日 (木)

東京工業大学が授業料値上げを発表

東京工業大学が授業料を9万6000円値上げすると発表しました。

東京工業大学は、2019年4月以降の学士課程入学者、および2019年9月以降の大学院課程(修士課程・専門職学位課程・博士後期課程)入学者の授業料について、学士課程、大学院課程とも、現行の授業料 535,800円(年額)を、635,400円(年額)に改定することといたしました。

授業料改定に伴い、本学では、国際化の推進、教育環境等の整備、学生の国際交流活動の充実といった教育内容・環境の向上を図ると同時に、自主財源を増強する努力を続け、志のある学生が経済的状況により本学で学ぶ機会を逸することがないよう、新たな給付型奨学金を創設するなど学生の経済的支援の充実に努めてまいりますので、ご理解を賜りますようお願いいたします。

同大学ウェブサイトより

「新たな給付型奨学金を創設するなど学生の経済的支援の充実に努めてまいります」とはあるものの,実態はこのとおり。

志のある学生が経済的状況により本学で学ぶ機会を逸することがないよう、産学連携等による資金獲得や本学の有する資産の活用などにより自主財源を増強する努力を続けて、学生への経済的支援の充実も図ります。具体的には、新たな給付型奨学金の創設等により、本学への進学機会に対する経済格差の解消に努めます。

問題点として,

  1. 財源が「産学連携等による資金獲得」「資産の活用」であり,今回の授業料値上げによる増収分を振り向けるものとは読み取れない。
  2. 「新たな給付型奨学金の創設等」の具体的内容が不明である。対象となる人数,給付額,給付の基準が家計ベースなのか成績ベースなのかなど,制度設計も規模感も一切明らかではない。

ことが指摘できます。

経済的な不安を抱えた受験生にとっては,このような抽象的な記載は何もないに等しく,単に授業料が約10万円値上げされ,負担軽減措置は期待できない,というメッセージにしかなりません。

そもそも国立大学は,教育の機会均等を図ることもその使命の一つであるからこそ,国から多額の運営費交付金を受けています。
教育の機会均等を図る方法は,必ずしも一律に私立より低廉な授業料を設定することのみではなく,授業料を引き上げる代わりに授業料免除などを大きく拡充する方法もありうるかもしれませんが,東京工業大学の声明からはそのような姿勢は見い出すことができず,疑問を持たざるを得ません。

授業料の引き上げ自体疑問はありますが,少なくとも速やかに新たな経済的負担軽減策の内容を示し,受験生が自らがその対象になるのか判断できるようにすべきではないでしょうか。

2018年8月19日 (日)

入れ歯安定剤と酒気帯び運転

酒気帯び運転で一審有罪になった男性が,使用していた「入れ歯安定剤に含まれるアルコールが検知された可能性がある」として,東京高裁で道路交通法違反(酒気帯び運転)について無罪になったそうです(読売新聞『「入れ歯安定剤でアルコール検知」酒気帯び無罪』8/19(日) 8:46配信)。

男性が使用した安定剤には16・9%のアルコールが含まれており,公判(裁判の審理)において再現実験をしたところ,飲酒していない状態にもかかわらず、安定剤を使用してから26分後に、呼気1リットル中0・15ミリ・グラムのアルコールが検知されたといいます。

酒気帯び運転は,道路交通法65条1項で禁止されています。

道路交通法65条1項

何人も、酒気を帯びて車両等を運転してはならない。

これに違反した場合,酒に酔っているかどうかで次のいずれかの処罰がなされます。

道路交通法117条の2

次の各号のいずれかに該当する者は、五年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。
一 第六十五条(酒気帯び運転等の禁止)第一項の規定に違反して車両等を運転した者で、その運転をした場合において酒に酔つた状態(アルコールの影響により正常な運転ができないおそれがある状態をいう。以下同じ。)にあつたもの
(以下略)

道路交通法117条の2の2

次の各号のいずれかに該当する者は、三年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
(略)
三 第六十五条(酒気帯び運転等の禁止)第一項の規定に違反して車両等(軽車両を除く。次号において同じ。)を運転した者で、その運転をした場合において身体に政令で定める程度以上にアルコールを保有する状態にあつたもの
(以下略)

ここで,いわゆる「酒気帯び運転」にあたる第117条の2の2第2号は「身体に政令で定める程度以上にアルコールを保有する状態にあつたもの」としていますから,呼気検査でアルコールが検出されたとしても,アルコールを「身体に保有」,つまり体の中にアルコールが入っていて,それが検出されたのでなければ「酒気帯び運転」になりません。

例えば,リステリンなどのマウスウオッシュにはエタノール(アルコール)が含まれているので,これでうがいをしてから呼気検査をすると,「酒気帯び運転」の基準を超えるアルコールが検知されることがあります。
しかし,このアルコールは口の中に残っているマウスウオッシュに含まれるエタノールが検出されただけですから「酒気帯び」とはいえません。

今回,入れ歯安定剤も口の中に入っているだけですから,入れ歯安定剤に含まれるエタノールが検出されただけなら「酒気帯び」にあたりません。
前夜に飲んだアルコールが原因,または原因の一つである可能性もあるかもしれませんが,前夜に飲んだアルコールが原因であると言い切れる,または入れ歯安定剤なしでも前夜に飲んだアルコールだけで呼気検査に引っかかっていたことが間違いない,と言い切れなければ有罪になりません。「疑わしきは被告人の利益に」です。

さて,ここまで読んで,飲酒した後はマウスウオッシュをして運転すれば捕まらない!と思った方,それは間違いです。
呼気検査前には水でうがいをしますので,マウスウオッシュは流れてしまうのです。

また,入れ歯安定剤は流れにくいですが,入れ歯を付けていない方がわざわざ入れ歯安定剤を塗っておくのは不自然です。入れ歯をしている方についても,今後は呼気検査前に入れ歯安定剤などは確実に除去させるとか,入れ歯の方が呼気検査でアルコールが検出されると,速やかに血液検査も実施するなどの対応がなされると思います。

そもそも,なぜ酒気帯び運転が違法なのかというと,酒気帯び運転が安全運転を困難にするからです。仮に酒気帯び運転が警察に分からなかったとしても,事故を起こせば被害者に迷惑を掛け,運転者も相応の責任を負いますから,お酒を飲んだら運転しない,翌朝運転するなら前夜の酒量は控えるといったことをきっちり守りましょう。

2018年6月 7日 (木)

「1週間前までに」はいつまでか?

総会や大会の案内を,「●日前まで」「●週間前まで」に送らなければならない,とあった場合,いつまでに送ればOKでしょうか。

たとえば,「1週間前まで」と言えば,前の週の同じ曜日に送れば大丈夫そうに思えます。
実際,裁判所に書面を提出する場合,「書面は次回期日の1週間前まで」と指定されることが多いのですが,それは通常前の週の同じ曜日の日のうちに提出,という意味です。

次に裁判所に行く日が6月13日(水)であれば,6月6日(水)が終わるまで(24時になるまで)に書面を提出(FAXで送る)すれば締め切りを守ったことになります。

ところが,厳密にはこれではダメなのです。例えば,一般社団法人の社員総会は1週間前までに通知を発する(発送する)必要があります。

(一般社団法人及び一般財団法人に関する法律第39条1項本文)

社員総会を招集するには、理事は、社員総会の日の一週間前までに、社員に対してその通知を発しなければならない。

この場合,前の週の同じ曜日ではなく,その前日に送らなければならないとされています。6月13日(水)が社員総会なら,6月5日(火)までに発送しないといけないのです。

一見奇妙に見えるかもしれませんが,民法の原則に従って計算すると,確かにこれで正しいのです。

社員総会の日の「1週間前までに発送」ということは,逆に言えば「発送から1週間後まで」は社員総会を開いてはいけないということです。そこで「発送から1週間後」はいつかを考えるとします。まず,

(民法第140条)

日、週、月又は年によって期間を定めたときは、期間の初日は、算入しない。ただし、その期間が午前零時から始まるときは、この限りでない。

がありますから,発送した日(例えば6月5日)は算入せず,翌日(同6月6日)からカウントします。次に,

(民法第143条)

1項
週、月又は年によって期間を定めたときは、その期間は、暦に従って計算する。

2項本文
週、月又は年の初めから期間を起算しないときは、その期間は、最後の週、月又は年においてその起算日に応当する日の前日に満了する。

を適用すると,6月6日(水)の1週間後(「最後の週」)に6日(水)に応当する日(=同じ曜日のこと)である13日(水)の前日,つまり12日(火)に期間満了となります。

ところで,期間の満了は

(民法第141条)

前条の場合には、期間は、その末日の終了をもって満了する。

とあるとおり,期間の最後の日(今回は12日)が終わったときとされていますから,12日が終わったときに「発送から1週間」が終わったことになります。

そうすると,社員総会を開くことができる「発送から1週間後」というのは,6月5日(火)発送なら13日(水)の午前0時からということになります。

この考え方については,戦前の最高裁判所にあたる大審院が昭和10年7月15日の判決で株主総会の2週間前までに招集通知を発することを求める商法156条第1項(当時)の規定について「通知書を発したる日の翌日より起算して会日迄の間に少くとも2週間の日数を存したる場合に非ざれば其の通知は違法なり」と述べ,発送した翌日から2週間は開催できないと明確にしています。

当然,「1か月前まで」は前月の1つ前の日付までとなりますし(6月7日開催なら,5月6日までに発送),「5日前まで」なら6日戻ることになります(6月7日開催なら,6月1日までに発送)。

この判決では,通知が遅れたことを理由にして株主総会の決議は違法で無効としています。1日遅れくらいと思っていると,株主総会や社員総会などの決議が無効とされ,組織運営に重大な問題を来すおそれがあります。

うっかり遅れた場合,出席できる人全員の同意を得られれば(同意を得られれば出席してもらえなくてもよい),通知が遅れても予定通り開催できる場合が多いようですが,1人でも了解が得られなければ日にちを改めて開催することになります。

完全な任意団体ならよほどのことがない限り問題ないかもしれませんが,会社や一般社団・財団法人,マンションの管理組合など,法律に根拠のある団体については特にご注意ください。

2018年4月11日 (水)

奨学金問題・「自己破産予備軍」の人数について

先日,客観的に見て,自己破産しても不思議はない人を「自己破産予備軍」と称するならば,約30万人のうち約20万人は「自己破産予備軍」と呼んでよいのではないかと書きました。

この計算根拠についてご説明したいと思います。

①延滞者のうち「破産予備軍」:122,723人

資料:

・平成28年度奨学金の返還者に関する属性調査結果([A] 概要

・平成27年度奨学金の返還者に関する属性調査結果([B] 本文

計算:

資料[A]によると,平成28年度末に奨学金返還を3か月以上延滞している者(延滞者)は160,580人(概要Ⅰ)。

3か月間も延滞をするのは破産状態を疑うべきですが,上記の調査では延滞者にも若干収入の高い人がいます。そこで,延滞者の状況に応じて返済が難しそうな人だけを「破産予備軍」とすることとします。

資料[B]の25頁には,延滞者に対して今後の返還の見通しを聞いた調査結果があります。
お金を借りている先から,「今後お金を返せそうですか?」と聞かれれば,普通の人はできるだけ「返せます」と答えるのが通常でしょうが,それでも厳しいとの回答をする人が少なくありません。

選択肢は次の6つです。

  1. 決められた月額等を返還できると思う
  2. 決められた月額等の半額程度より多く返還できると思う
  3. 決められた月額等の半額程度返還できると思う
  4. 決められた月額等の半額程度より少ないが返還できると思う
  5. 返還できないと思う
  6. わからない

このうち,3~6は予定通り返せる見込みがなさそうであるとして,「破産予備軍」とします。表5-7-1からその割合は58.52%です。

また,本人の年収とクロス集計した表5-7-2では,1・2の人たちの相当部分は実際には年収が低く,本当に返せるのか疑問があります。
そこで,返せると回答している1・2の人のうち,年収0~200万円未満までの人も「破産予備軍」とします。その割合は17.91%です。

延滞者160,580人にこれらの割合を掛けると,122,723人となります。

②返還猶予利用者のうち「破産予備軍」:50,322人

資料:

・平成28年度業務実績等報告書([C] PDF

・平成26年度業務実績等報告書([D] PDF

・平成27年度債権管理・回収等検証委員会報告書([E] PDF

計算:

資料[C]45頁より,平成28年度の一般猶予承認件数は154,249件。
「一般猶予」は,返還期限猶予のうち,教育機関在学中以外の事情で返還期限を猶予するもので,その86%は生活困窮(低収入など)です。

ただし,これは1年間の承認件数で,短期間のものなども含まれているとみられることから,平成28年度末時点で一般猶予を利用している人数に補正する必要があります。

この点は正確な資料がありません。
同調査の平成26年度版である資料[D]26頁では,一般猶予承認件数は137,561件となっており,一方で資料[E]16頁では,利用期間別の平成26年度末の「返還期限猶予制度(うち経済困難等を理由とするもの)」の数が合計92,341となっていることから,

 154,249 ÷ 137,561 × 92,341 = 103,543人

が平成28年度末時点で一般猶予を利用している人数(又は件数)となります。

さらに,しばらく返還猶予制度を利用した後,通常通り返還できるようになる人も少なくありません。この人たちの中には「破産予備軍」とまでは言えない人も少なくないでしょう。

資料[E]16頁には減額返還・返還期限猶予制度を利用した人が2年後どうなっているかを調べた調査があり,返還期限猶予制度については,51.4%の人が2年後に返還完了又は通常返還無延滞となっています。

したがって,返還期限猶予者のうち,「破産予備軍」と推計できるのは103,543 ×(100% - 51.4%)= 50,322人となります。

③減額返還利用者のうち「破産予備軍」:7,983人

資料:②に同じ

計算:

基本的に②と同様です。

資料[C]44頁より,平成28年度の減額返還承認件数は21,013件。

 21,013 ÷ 137,561 × 92,341 = 14,105人

資料[E]16頁で,減額返還制度については,43.4%の人が2年後に返還完了又は通常返還無延滞となっているため,減額返還者のうち,「破産予備軍」と推計できるのは14,105×(100% - 43.4%)= 7,983人となります。

④代位弁済のあった人=「破産予備軍」:7,910人

資料:②に同じ

計算:

「代位弁済」とは,家族親族に連帯保証人,保証人になってもらう代わりに,保証機関(一般の保証会社ではなく,公益財団法人日本国際教育支援協会が行っています)に保証料を払って連帯保証してもらった人について,一定の延滞が生ずると保証機関が代わりに日本学生支援機構に奨学金を一括弁済するという仕組みです。

一定期間延滞が続いている方がこの代位弁済の対象となりますから,基本的に全員を「破産予備軍」としてよいと思われます。

資料[C]41頁より,平成28年度中の代位弁済件数は7,910件です。

本来は過年度分の代位弁済件数をどうするかという問題もありますが,さしあたり当年度分のみとしています。

まとめ

①延滞者のうち122,723人

②返還期限猶予制度利用者のうち50,322人

③減額返還制度利用者のうち7,983人

④代位弁済を受けた7,910人

を合わせた188,938人が「破産予備軍」と推計されます。

破産への抵抗感が強いことや保証人がいると迷惑が掛けられないとして破産を避けることが多いことなどから,この人たちの多くは破産を選択していないわけですが,返還困難時の救済制度を十分整備しなければ,さらに奨学金を原因とする破産が増加するおそれがあるということは踏まえて制度を検討していく必要があるでしょう。

ただし,このうち,②③の58,305人については,機構の返還困難時の救済策である返還期限猶予制度,減額返還制度により,破産の危機に直面せずに済んでいる,と評価することもできます。

このような制度が設けられていることは機構の奨学金制度の積極面として評価してよいと思いますが,他方で,それだけでは救済しきれないのではないか,という点は指摘しなければならないでしょう。

(補足)

上では「~人」と表記していますが,機構の発表している数字は無利子と有利子を併用した場合,大学と大学院で借りた場合などにダブルカウント,トリプルカウントになっている場合があります。そのため,「~人」とは書いてありますが,このような重複してカウントされている例が含まれている可能性があることはご承知おきください。

2018年3月26日 (月)

『教育費の政治経済学』と子どもの貧困,教育の無償化

今日は「無償教育の漸進的導入」に係る公開研究会として,日本大学文理学部の末冨芳・准教授(教育行政学)を講師に「『教育費の政治経済学』と子どもの貧困,教育の無償化」と題した研究会に参加しました。

末冨先生の著書である『教育費の政治経済学』(勁草書房)は数年前に購入し,私の買った本リスト(エクセルで作ってあります)には2014年8月以前に読み終えて,かついい内容の本だという評価がされているのですが,内容にまったく記憶がないので,きっと読んだつもりになっているのでしょう。

近時,明石書店から『子どもの貧困対策と教育支援──より良い政策・連携・協働のために』という本も発行されたそうです(こちらの本の著者の一人である横井葉子さんとは,横浜で行っている勉強会でご一緒させていただいております)。

末冨先生のご指摘の中で,やはり受け止めねばならないことは,この間,子どもの貧困や教育格差の問題が指摘される中で,テストスコア(全国学力テストの成績やPISAテストの成績といった点数で評価できるもの)と家庭の社会経済的背景・社会の教育投資額の関係を比較するアプローチが広がってきたことの功罪です。

たしかに,お茶の水女子大の耳塚先生に代表されるようなテストスコアが家庭の社会経済的背景によって相当程度規定されているという調査が示されることで,相対的に不利な地位にある子どもたちへのフォローが必要であるという世論が相当程度喚起されたこと,それを受けて子どもの貧困対策法などを通じ,行政も一定の対策を講じつつあることは肯定的に受け止めなければなりません。

他方で,これらの対策の中心が,学校外教育の費用負担の軽減(典型的には塾代補助)となっていることからもわかる通り,1つには社会経済的背景の不利が子どもに不利に働く仕組みには手を付けず,対症療法的になっていること,もう1つは公教育そのものへヒトやモノを投入して質の改善を図るというものになっていないということには,気を付ける必要があります。

本来,子どもの貧困対策は総合的なアプローチであり,投資以外にも子どもの人権保障という面や次世代の社会の基盤づくりといった面があるはずですが,それらが捨象される危険性には常に気を付けねばなりません。

公立学校の教員には,子どもの貧困問題も念頭に置きながら,熱心に子どもと向き合っている先生方がたくさんいらっしゃいますが,ただ,アルマーニの制服に限らず,たとえば学校で全員に購入させる道具類(書道セット,裁縫セット,絵の具,色鉛筆,楽器など)について,その必要性の吟味や必要としたときにできるだけ廉価なものを指定するといった配慮が不十分である学校は少なからず存在するように見受けられます。
アルマーニの制服(実際は「標準服」だそうですが)についても,そもそも小学校で制服を必要とする理由に立ち返る必要があるでしょう。

末冨先生の問題提起で,このようなものがありました。

次のうち,公立中学校で必要なものはどれか?逆に,公立中学校には不要(むしろない方がよい)というものはどれか?

掃除機  アナと雪の女王のDVD  演劇シアター  iPad  朝食

3Dプリンター  任天堂スイッチ  カフェ  修学旅行  犬

日本国内で,100%とはいわないまでも,多くの人が必要だ,と答えるのはせいぜい修学旅行くらいな気がします。逆に,掃除機,DVD,演劇シアター,3Dプリンター,任天堂スイッチ,カフェあたりは多くの人からない方がよい,と言われそうですね。
みなさんはいかがでしょうか。

末冨先生は修学旅行が必要,ということには懐疑的です。あえて親に金銭的負担をさせてまで修学旅行を行う意味があるのか,という疑問からです。
私は学校外での生活体験,宿泊体験,特に日常とは異なる地の体験(旅行体験)が各家庭任せではすべての子どもに保障されないため,学校として実施する意義は十分あると考えますが,先生が指摘される通り,学校の先生方のうち,修学旅行を実施する意義(あらゆる経済状況の親がいる中で,あえて親の負担で修学旅行を実施しなければならない必要性,あるいは就学援助費で修学旅行費を支出する必要性)を十分説明できる先生方がどれほどいらっしゃるかと問われれば,頭を抱えざるを得ません。

さて,私は先日,高等教育の負担軽減を唱える立場ながら,高等教育の「無償化」に懐疑的な論考を書きましたが,末冨先生も現在言われている「無償化」には慎重論のようです。「無償化より大事/有効なことがある」と考えるからです。

ただし,私が思うのは,「無償化より前にやるべきことがある!」という意見は,政府関係者が主張すると,「無償化より前に「やるべきこと」がある,だがその「やるべきこと」もお金がかかるから慎重であるべきだ」という意味になり,結局「何もしない」あるいはお茶を濁す程度しかしない,という結論になってしまう,ということです。

なぜ末冨先生や私たちの「無償化より大事なことがある」と彼らの(そう,たいてい「彼ら」であって,「彼女ら」になることが少ない),「無償化の前にやるべきことがある」の意味が違ってくるのか,まずそこが問題ではないか思います。

2018年2月16日 (金)

奨学金問題・「自己破産予備軍」

昨日(2018.2.14)付朝日新聞の奨学金特集に私のコメントが載りましたので,「自己破産予備軍」について若干の解説をしておきます。

「自己破産」は,自ら申し立てて裁判所で破産手続を開始してもらうことですが,誰でもできるわけではなく,一定の要件を満たさなければ破産手続を始めることができません。

破産法15条
1項 債務者が支払不能にあるときは、裁判所は、第30条第1項の規定に基づき、申立てにより、決定で、破産手続を開始する。
2項 債務者が支払を停止したときは、支払不能にあるものと推定する。

このように,支払不能,つまり債務者(お金を借りた人)が借金を払えない状態になった場合に破産手続を開始することでき(1項),支払停止,つまり債務者が借金の返済をストップしたときは,払えるけど返さないのではなく,払えないものと考えて,特に反対の事情がなければ破産手続を開始する(2項)とされています。
※なお,会社などの法人は,債務超過(預貯金や売掛金などのプラスの財産より,借金や買掛金などマイナスの財産の方が多いこと)の場合も破産手続を開始できますが,個人の場合は借金の方が多くても,返済計画通り払えるなら破産できません

そうすると,奨学金の返済を延滞しているというのは支払停止ですから,借金を返せない状態であると推定され,破産手続を開始する要件を満たします。
1回延滞しても単に銀行の残高が足りなかっただけかもしれませんが,3か月以上の延滞はさすがに返済が止まっているといえますから支払停止にあたり,破産手続を開始しうると考えてよいでしょう。
返還猶予や減額返還制度を利用している方も,予定通り返済することができないために返還猶予や減額返還制度を利用しているわけですから,支払不能と考えてよいでしょう。

2016年度末でみると,返還猶予制度利用者は約15万人(在学猶予を除く),減額返還制度利用者は約2万人です。ただし,高校と大学の両方で借りた人などは2人としてカウントされているので,実際はある程度減り,3か月以上延滞者16万人を加えて28~29万人程度でしょうか。

もちろん,返還猶予や減額返還を利用することで破産を回避し,1~数年して当初の計画通りの額を返せるようになる人も少なくありませんし,延滞者の中にも自宅を所有しているなどの理由で破産を選択しない(自宅を売却して返済したり,民事再生手続を利用するなど)方もいらっしゃいますから,約30万人がすべて「自己破産予備軍」になるわけではありません。
しかし,客観的に見て,自己破産しても不思議はない人を「自己破産予備軍」と称するならば,約30万人のうち約20万人は「自己破産予備軍」と呼んでよいでしょう。

ただし,忘れてはならないのは,機構の返還猶予制度・減額返還制度を利用している方は,これらの制度によって自己破産をせずに済んでいる,という面もあるということです。そういった意味で,機構の救済制度は一定の役割を果たしています。
しかし,返還猶予制度は原則10年が上限とされています。2014年に延長されるまでは5年が上限でしたから,増えた5年分を使い果たす2019年には引き続き低収入なのに返還猶予制度を利用できず,延滞に陥って自己破産を選択する人が急増するおそれがあります(なお,過去に遡って返還猶予を利用している場合は,既に使い果たしている可能性もあります)。
大学を卒業したのに年収が300万円(返還猶予の目安金額)に達しない状態が継続するというのは,およそ大学を卒業したものの,経済的には大卒の利益を享受していないということであり,そのような方にも厳しく返還を迫ることが合理的なのかどうかは疑問があります。

イギリスやオーストラリアでは,年収が低額(300~480万円以下)の場合は自動的に返還を猶予し,長年低所得が継続すればそのまま残債務は免除するという仕組みになっています。高等教育を受けることで経済的にも利益を得たのであれば,そのうち学費見合いの分は返してもらうが,経済的に利益を得なければ返さなくていいよ,という考え方です。
21世紀は知識基盤社会と呼ばれるように,産業が高度化し,一握りの「優秀」な人間だけが大学に通えば社会が発展するという時代ではありません。一握りの「優秀」な人間を育てることも大事ですが,それにもまして多くの人々が高等教育を通じてさまざまな能力・スキルを身に付けなければ,国際競争に後れを取ってしまうという時代です。
そのような時代には,カネのことは心配せずに進学せよ,という仕組みを構築しなければなりません。結果,経済的にも成功した人から応分の負担を(税という形か,奨学金の返還という形かは別にして)いただくことはありうるにせよ,学費を払えないとか,将来奨学金を返せないかもしれないとかいったことで進学を躊躇させるようなシステムは21世紀にふさわしくない,と考えています。

2018年2月 9日 (金)

お金がない人にあげる奨学金よりお金がある人にあげる奨学金の方が大事!?

文科省に「高等教育段階における負担軽減措置に関する専門家会議」という会議が設置されたそうです。
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/koutou/086/gijiroku/1400886.htm

住民税非課税世帯の子どもが大学や専門学校に進学しようとするときの経済的支援を拡大しようと言うことで、それを具体的に詰めていく会議なんだそうです。
メンバーは県知事1名、国立大学長1名、私立大学長1名、専門学校関係1名(全国各種学校専修学校総連合会常任理事)、高校PTA連合会相談役1名、学識経験者らしき大学教員も1名いますが、公共経済学が専門で、学生に対する経済的支援が学生の進学にどのような影響を及ぼすかを分析する教育社会学や教育経済学の専門家がいません。
高校PTA連合会の方も夫が県議を長く務めた後で町長になられた方だそうで、貧困世帯の子どもの進学について当事者性は見出せません。
このような会議で地に足のついた議論ができるのか甚だ疑問です。せめて国立大の学長くらい東京工業大ではなく地方大学にすればいいのに。

さて、資料5に高等教育進学をめぐっての資料がいろいろ入っています。なかなか有用です。

ただ、13頁をみると、私学助成で130億円(平成30年度予算案)を私大の行う授業料免除などの支援に使っています!と書いてあるのですが、詳しく見ていて驚きました。

「1.授業料減免事業等支援」は「経済的に修学困難な学生に対し、授業料減免等の事業を実施している私立大学等」ということで、主にお金がない学生への支援であり、「所要経費の1/2以内で支援」、つまり、経費の半分まで予算の限りで出しますよ、という形です。

他方、「2.各大学における特色ある経済的支援策」の「(1)卓越した学生への経済的支援」は「成績優秀者等への授業料減免等を実施している私立大学等」ということで、お金がある学生でも成績が良ければ支援します、というものです。ところが、「所要経費の2/3以内で支援」、つまり、お金のない学生が対象だと50%が上限なのに、成績のいい学生が対象だと66%(2/3)まで出すと言うのです。

統計データを出すまでもなく、お金のない学生は授業料を免除してもらっても、生活費を稼がないといけませんから、アルバイトをせざるをえない学生が大半で、予習や復習の時間は限られます。
それに対し、家庭に経済的な余裕のある学生は親が授業料も生活費も出してくれるので、勉強時間がたっぷりあります。
この人たちを同列に競争させて、成績が良かった方に授業料を免除します、という制度を作ったら、お金持ちの家庭の学生が授業料免除を受ける可能性が高いことは明らかです。家計状況を無視して成績だけで決めるのは、そもそも平等な競争ではないのです。

大学が自己資金でこのような制度を作るのは自由かもしれません(私は自己資金でも問題があると思います)。
たしかに「優秀」な学生がほしい、学生をお金で釣ってでももっと勉強してほしい、という気持ちは分からないではありません。卒業生に知名度の高い企業や公務員に就職してもらわないと入学者が集まりませんから。

しかし、このような不公平な競争を「特色ある経済的支援策」などとして、お金のない学生を応援するよりもたくさん補助金がもらえる仕組みを作ることは間違っているのではないでしょうか。

たしかに、お金がなくても意欲と能力さえあれば高等教育を受けられる仕組みを作るということと別に、特に高い能力をもつ「卓越した学生」を養成する必要はあるでしょうし、そのような「卓越した学生」が公費で学ばせてもらったから社会に恩返しをしよう!というふうに動機付けする仕組みがあればなおよいでしょう。
ただ、そのような学生の養成を日本中の大学で行う必要はありません。旧帝大などごく一部の大学で行えば十分と私は考えています。各大学の中で「卓越した学生」が必要なのではなく、同世代の中で「卓越した学生」が必要なのです。
それ以外の多くの大学・専門学校は、広く高等教育を保障する役割を担うべきでしょう。
この助成を利用している大学名を知りたいものです。

手を洗う時間も労働時間です(ラーメン屋さんとタイムカード)

先日、昼食を食べに事務所近くのラーメン屋さんに入りました。
注文した後店内を見回していると、厨房の入り口に置いてあるパソコンに

「打刻は業務中!身だしなみ整え 手指消毒後」

と貼ってありました。

しかし、手指消毒をする時間は労働時間ですし、身だしなみについてもエプロンをつけるなど業務上必要な部分は労働時間となりますので、出勤のタイムカードを打ったあとしかお給料を払っていないとすれば賃金の一部が未払い(違法)となります。

「労働時間」はお給料が払われる時間ですが、どこまでが「労働時間」に入るのかをめぐって裁判所で争われた事例はたくさんあります。最も基本的な判例が三菱重工長崎造船事件です。

①労働基準法32条の労働時間とは、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいい、右の労働時間に該当するか否かは、労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるか否かにより客観的に定まるものであって、労働契約、就業規則、労働協約等の定めのいかんにより決定されるべきものではない
②労働者が、就業を命じられた業務の準備行為等を事業所内において行うことを使用者から義務付けられ、又はこれを余儀なくされたときは、当該行為を所定労働時間外において行うものとされている場合であっても、当該行為は、特段の事情のない限り、使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができ、当該行為に要した時間は、それが社会通念上必要と認められるものである限り、労働基準法上の労働時間に該当する
(最高裁判所平成12年3月9日判決民集第54巻3号801頁)

ざっくり言えば、労働者の行為が会社に言われたから行っているといえる場合は労働時間である、出勤後に着替えや手洗いなどをしないといけないなら、それは原則として労働時間ですよ、といっているわけです。

ラーメン屋さんなどの飲食店では、出勤後にエプロンを付けないといけませんし、手を洗わないといけません。エプロンを着て通勤したり、手を洗わずに仕事を始めるのは衛生上問題がありますよね。
したがって、身だしなみを整える時間(エプロンを着るなど業務上必要なもの)、手指消毒の時間は、いずれも労働時間となりますので、賃金が支払われることとなります。

私が行ったラーメン屋さんは、エプロンを着て手を洗って消毒をしてから、出勤のタイムカードを打刻するルールにしています。シールを見る限り、おそらくこのラーメン屋さんはタイムカードを打刻してからの賃金しか払っていない(エプロン着用や手を洗う時間の賃金を払っていない)とみられます。
せめてエプロンを着て手を洗うのに必要とみられる合理的な時間を、タイムカードで計算された勤務時間に加算して賃金を支払うべきでしょう。

なお、衛生面からみると、パソコン(のキーボード)をちゃんと消毒しているならいいですが、そうでないとするとせっかく手を洗って消毒したのに、清潔ではないパソコンを触ることになります。
また、手を洗う時間について実時間に応じた賃金が支払われないとすると、さっさと適当に手を洗って済ませてしまうのではないか、という懸念も生じます。

いずれにせよ、飲食店として衛生面を考慮すれば、出勤の打刻をしてから、ちゃんと手を洗ってもらう(あまりに長く手を洗っている場合は上司が注意して止めさせる)ことで、法律をきちんと守り、かつ、お客さんにも安心して利用してもらえるのではないでしょうか。
エプロンを着て手を洗う時間はせいぜい数分です。それをあえて法律違反かつ衛生上問題のある方法でケチるよりも、もっと節約できるところはあるはずです。

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