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2017年8月 2日 (水)

旅行業法とサマーキャンプ問題:4 「営利の目的」の判断方法についての考察

4 「営利の目的」の判断方法についての考察

(1)法学において「営利」が問題となる場合

ア 商法・会社法の分野においては,「営利」は2つの意味で問題となります。

1つは,特定の対外的取引について営利の目的であるという場合の「営利の目的」,もう1つは「営利法人」かどうかを区別する要素としての「営利性」です。

前者の「営利の目的」とは,行為主体である自然人・法人・団体自体の性質ではなく,特定の対外的取引の目的がどこにあるかを問題とするものであり,後者の「営利性」は構成員が法人・団体を設立した目的が何であるか-構成員が利益を得るためか,それ以外の目的か-を問題とするものです。

イ 前者の「営利の目的」は「本来,対外的取引によって利益をあげる,すなわち収入と支出との差額を得るという目的をいうが,資本に対する報酬を含めて(資本的計算方法によって)収支がバランスすることが予定されている場合には,営利目的があるとされる。この目的は個々の行為について存在する必要はなく,また現実に利益を得ることは必要ではない。また,他の目的が併存していてもよい。」(弥永真生『リーガルマインド商法総則・商行為法(第2版)』有斐閣,2012p.17)とされます。

ここでいう,「資本に対する報酬を含めて収支がバランスすることが予定されている」の意義は明確ではありませんが,「資本に対する報酬」は対外的取引に投下している資本を他に投資すれば一定の利益・利息を得られるはずですから,これを「資本に対する報酬」というと考えるのが素直です。

そうすると,対外的取引によって収入と支出があり,単にこれが釣り合い,又は収入から支出を差し引くと「資本に対する報酬」を下回る見込みの場合は「営利の目的」があるとはいえないが,収入から支出を差し引いて,「資本に対する報酬」以上(同額を含む)となる見込みの場合は「営利の目的」があるということになります。

たとえば,ある対外的取引に1000万円の資本を投下しており,「資本に対する報酬」が金利1%で年10万円とすると,年間の収支差益が10万円以上の見込みである場合は「営利の目的」が認められるということになります。

なお,「医師・弁護士などの自由職業人については,個人の主観的意図のいかんにかかわらず,営利目的の存在を否定するのが通説である」(前掲弥永)とのことですから,社会通念上,通常営利の目的で行うとはみられない場合は,「資本に対する報酬を含めて収支がバランスすることが予定されている」場合でも,営利の目的は否定されることがあるということでしょう。

ウ 後者の「営利性」は「営利法人概念の構成要素としての営利性」と呼ばれ,ある法人が,構成員に利益を分配する目的で設立されたことをいいます。

具体的には株式会社のように,対外的活動によって得た利益を構成員に分配することを目的に設立される法人を営利法人といいます。

「分配」とは,株主に対する剰余金の配当や清算時の残余財産の分配をいいます。株式会社は,株主がお金を出し合い,対外的取引によって得た利益を会社にため込むのではなく,株主が分配によって利益を得る目的で設立されるものですから,株主に対し,平時に剰余金を配当せず,かつ清算時に残余財産を分配することもない株式会社を作ることはできません(会社法105条2項)。

一般社団・財団法人,公益社団・財団法人,NPO法人などでは,仮に利益が生じても,このような「分配」はできません。一般社団・財団法人法11条2項は明確にこのような「分配」を定款に定めることを禁止しており,特定非営利活動促進法2条2項1号の「営利を目的としないもの」は営利法人性を否定する趣旨と解されています。

エ 旅行業法においては,前者の「営利の目的」が問題になると解されます。

なぜならば,旅行業法の趣旨に照らすと,同法の目的である旅行の安全の確保や,旅行者の利便の増進等のためには,無登録者が不当な利益を目的として旅行者と運送等サービス提供者との間に介入する行為を防止する必要性が高く,旅行業法29条1号もそのような行為を刑事罰をもって抑止するために設けられたものと解されるとする高松高判平25.1.29高刑速平25-289の判示に照らすと,「営利の目的」は無登録者が利益を目的として旅行業該当行為を行っているかどうかの判断基準であると考えられ,そうでれば,旅行業該当行為を行うに際して前者の「営利の目的」があるかどうかを問題にすべきであって,仮に営利法人でなかったとしても,当該行為に「営利の目的」があれば,旅行者保護のため,旅行業法による規制がされるべきであると考えられるからです。

(2)裁判所の「営利の目的」の判断基準について

ア 「営利の目的」の認定につき,高松高判平25.1.29高刑速平25-289は,営利の目的について判断させるため,事件を松山簡易裁判所に差し戻し,同裁判所で営利の目的の有無を審理するよう命じました。

松山簡判平27.3.24は,①旅行業該当部分の支出を削減することで、イベント部分の損失を減少させ、又は利益を増加させることができる、②イベント部分を含む企画全体として営利の目的があるから,旅行業該当部分も営利目的がある,の2点のいずれもから営利の目的を認定できるとしました。

しかし,その差戻後控訴審である高松高判平27.10.8は,前記①は営利目的の認定が幅広くなりすぎ,これのみから営利の目的は認定できないとしつつ,②同様,バイクツアー自体が営利目的であることは明らかで,その一部である旅行業該当行為部分も営利目的であるとして営利目的を認め,最高裁もこれを支持しました。

イ 類似する事例として,宅地建物取引業においては,宗教法人の住職で責任者である被告人が,同寺の伽藍再建の資金を調達するため,同寺の所有する山林を切り開いて60数区画の分譲住宅地を造成し,一般に広告した上一般顧客に売却して利益を得た事例(最高裁昭和49年12月16日決定)で,「被告人が本件宅地の売渡しにつき利得の目的を有していたことは明らか」と判断しています。

また,覚せい剤取締法41条の2第2項にいう「営利の目的」は「犯人がみずから財産上の利益を得、又は第三者に得させることを動機・目的とする場合をいう」(最高裁昭和57年6月28日決定)とされており,「有償」であることを要する道路運送法4条違反(いわゆる白タク)について白タク運転手が受領した金員が「ガソリン代,修繕費,自動車償却費その他の実費を上廻る金額である」ことから「営利の目的」を認定しています(東京高裁昭和38年4月12日判決)。

ウ これらを考慮すると,当該行為又は当該行為と一連一体の行為により財産上の利益を得ようとすることを営利の目的といい,これらの行為により財産上の利益を得られる見込みがあり,それを認識してあえて行った場合には,その利益の利用目的によらず「営利の目的」は認定されるのであり,究極の目的が宗教活動や政治活動であったとしても,「営利の目的」が認定されることとなります。

もっとも,前記の商法における「営利の目的」の意義や前記白タクに関する東京高裁昭和38年4月12日判決が「実費」として修繕費や自動車償却費を考慮し,さらにそれを上回ることを指摘して「営利の目的」を認定していることからすれば,「財産上の利益」とは,少なくとも「資本に対する報酬を含めて収支がバランスすることが予定されている」をいうものと解すべきと考えますが,これについては明確ではありません。

いずれにせよ,国や公共団体,公的団体,非営利団体など,営利法人以外の団体であったとしても,当該行為自体について財産上の利益が残る場合には,「営利の目的」があると認定される可能性があるといえます。

(3)主催団体の属性による判断

ア 国,地方自治体

国や地方自治体が営利目的で事業を行うことは,通常考えにくいといえます。

これらは構成員から強制的に金銭を徴収し,その国民又は住民の福祉の増進のために事務を行います(地方自治法2条14項参照)。

そして,国民又は住民の福祉の増進のために行う事務は,通常,その費用の一部を受益者に負担させることはあっても,受益者からの収入が支出を上回るよう見込み,その収支差額を得ようとする,すなわち財産上の利益を得るために行うことはありません。

もっとも,国や地方自治体の営利の目的で対外的取引をすることを禁止する明文の規定は見当たらず(地方自治法等),絶対にありえないとはいえません。

しかし,国や地方自治体は,税収をもって行政活動を行うのが当然であり,一定の実費を徴収することはあっても,特定の事業によって財産上の利益を得ようとすること自体,非常に例外的な場合に限られるというべきでしょう。

イ 株式会社

株式会社が,その事業としてする行為及びその事業のためにする行為は商行為とされ,商行為は「営利の目的」で行うことを前提にしていますから(商法501,502,503条参照),株式会社がその事業として,又はその事業のために旅行業該当行為を行う場合,よほどのことがない限り「営利の目的」があるものと認定されるでしょう。

なお,株式会社がその事業とは無関係に旅行業該当行為を行う場合は,理論上,当該行為を率直に観察して,「財産上の利益を得る見込みがあるか」によって判断すべきですが,そもそも営利法人性を持つ株式会社が事業と無関係の行為を行うこと自体例外的であり(商法503条2項参照),「営利の目的」がないと考えるのは容易ではないでしょう。

ウ 一般社団法人・一般財団法人

一般社団法人及び一般財団法人に関する法律に基づく一般社団法人及び一般財団法人は,行うことができる事業には制限がないため,収益事業を行うことも許されています。逆に,公益目的・非営利の事業を行うことも自由です。

そうすると,これらの団体が旅行業法該当行為を行う場合は,当該行為を率直に考察して,「財産上の利益を得る見込みがあるか」によって判断されることになります。

同法11条2項で,剰余金の分配も残余財産の分配も禁止されており,営利法人性がありませんから,収益事業によって利益を得てもそれを構成員に分配することはできませんが,旅行業法上の「営利の目的」は当該行為自体に「営利の目的」があるかどうかで判断され,当該法人の営利法人性は問題となりません。

エ 公益法人

公益法人は,公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律の定めにより公益認定を受けた一般社団法人又は一般財団法人をいいます。

公益法人は,公益目的事業を行うことを主たる目的とする法人です(同法5条1号)。

しかし,収益事業等を行うことも許されていますから,収益事業等が旅行業に該当する場合は,一般社団法人及び一般財団法人と同様に,当該行為を率直に考察して,「財産上の利益を得る見込みがあるか」によって判断されることになると考えられます。「収益事業等」は「公益目的事業以外の事業」と定義されており,収益目的でなくても「収益事業等」に含まれる場合があるため,株式会社のように通常「営利の目的」があるとまではいえないでしょう。

他方,公益目的事業は同法5条6号で「当該公益目的事業に係る収入がその実施に要する適正な費用を償う額を超えないと見込まれるものであること」と定められており,行政庁がこれを満たすと認めたときに公益認定がされることからすれば,公益法人の行う公益目的事業は(資本に対する報酬を含めたうえで)黒字にはならず,収支均衡か赤字になるしかない事業であると行政庁が認めた事業であって,「資本に対する報酬を含めて収支がバランスすることが予定されている」とはいえず,営利の目的は通常認められないと解されます。

ただし,実際には同法5条6号を満たさないのに公益認定がされていたり,認定後に収益重視の傾向を生じていたりする場合は,例外的に営利の目的があると認められる可能性はあります。この場合,その事業は適正な費用を償う額を超える収入を得ることを禁止する同法14条に違反します。

オ 特定非営利活動法人(NPO法人)

特定非営利活動法人は,特定非営利活動促進法に基づいて設立される法人で,「特定非営利活動を行うことを主たる目的とし」「営利を目的としないもの」であるとされています(同法2条2項)。

しかし,5条1項に「その他の事業」により利益を生ずることを予定した規定がありますから,ここでいう「営利を目的としないもの」は,営利法人性を否定したにすぎず,営利事業を行うことを否定するものではないと解されます。

そうすると,「その他の事業」については,公益法人の「収益事業等」と同様,当該行為を率直に考察して,「財産上の利益を得る見込みがあるか」によって判断すべきと考えられます。

他方,「特定非営利活動」は,「不特定かつ多数のものの利益の増進に寄与することを目的とするもの」(同法2条1項)ですから,主たる目的は通常「営利の目的」ではないと思われますが,「営利の目的」が併存しても特に問題はなさそうです。

また,公益法人のような厳格な公益認定の手続はなく,認定NPO法人についてもその特定非営利活動が営利性を有しないことの要件はありません。

そうすると,「特定非営利活動」についても,一般論として,「その他の事業」に比べて「営利の目的」を伴わない場合が多いとみられるとはいえ,当該行為を率直に考察して,「財産上の利益を得る見込みがあるか」によって判断すべきと考えられます。

カ まとめ

以上のとおり,「営利の目的」の判断については,次のとおり分類できます。

(ア)営利目的はほぼ認められない

・国・地方自治体

・公益法人の公益目的事業

(イ)営利目的が認められるか率直な観察が必要

・一般社団法人等の事業

・公益法人の収益事業等

・NPO法人の特定非営利活動

(営利の目的がない場合が多いだろう,という程度の推認はされる)

・NPO法人のその他の事業

・株式会社がその事業と無関係に行う行為

(ウ)営利目的がほぼ認められる

・株式会社がその事業として,又はその事業のために行う行為

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