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2017年8月 2日 (水)

旅行業法とサマーキャンプ問題:3 「営む」の意義についての考察

3 「営む」の意義についての考察

(1)高松高判平25.1.29高刑速平25-259について

ア 「旅行業に該当する行為を営むとは,営利の目的で,旅行業に該当する行為を行うことをいう」と判示した前掲高松高判平25.1.29は,「営む」が「営利の目的」を含むと解釈した根拠として,旅行業法29条1項が,旅行業を営もうとする者の登録義務を定めた同法3条による登録を受けないで,同法2条所定の旅行業該当行為を「営んだ」場合の刑事罰を定めているところ「旅行業法の目的である旅行の安全の確保や,旅行者の利便の増進等のためには,無登録者が不当な利益を目的として旅行者と運送等サービス提供者との間に介入する行為を防止する必要性が高く,旅行業法29条1号もそのような行為を刑事罰をもって抑止するために設けられたものと解される」ことを挙げています。

この判示は,営利の目的がない場合は,無登録で旅行業該当行為を行っても,実害が生ずるおそれが高いとは言えず,また行為者も経済的な利益を得ようとしていないため刑事罰を与える必要があるとはいえないのに対し,営利の目的がある場合は,旅行者が相当の経済的損害を被る危険があり,また行為者も経済的な利益を得ようとしたものであり,悪質であって処罰の必要があると考えられるから,妥当であるといえます。

イ なお,この判決中には,高裁の審理において,検察官も「旅行業法29条1号に違反する罪の構成要件として「営利目的」が必要であるという解釈を前提に」意見書2通を提出した旨指摘されており,検察官は破棄差戻の可能性があったのに,「営利目的」が必要であることを争わなかったことが分かります。

検察官としては,この事件について当然「営利目的」が認められると考えていたとしても,他の事件への影響がありうるため,「営利目的」の有無によらず無登録営業罪が成立するというべき理由があれば,その解釈について争い,場合によっては高裁判決に対して上告を申し立てるべきところ,それをしていないわけですから,この点からも「営利目的」が必要であるという判断は相当であるとみられます。

(2)宅地建物取引業法等との比較及び制定経緯等

ア 他の業法における「営む」の意義

○○業を「営む」という用語は,ほかの法律(いわゆる業法)にも使われており,最高裁の判断がなされたものもあります。

最も古いとみられるのは,古物商営業法につき,同法「六条にいわゆる営業とは、営利の目的で同条所定の行為を反覆継続して営む意思を以てなすことを指称する」とした最決昭31.3.29集刑112-851ですが,その後宅地建物取引業法につき,同法「一二条一項…にいう「宅地建物取引業を営む」とは、営利の目的で反復継続して行う意思のもとに宅地建物取引業法二条二号所定の行為をなすことをいう」とした最決昭49.12.16刑集28-10-833(同旨:最決昭48.7.7集刑189-341)も出されました。

他方,相互銀行法につき,同法の「相互銀行業を営む」については「営利を目的とすることは必ずしもその要件とするところではない」とした最決昭35.7.26刑集14-10-1295もあり,○○業を「営む」が常に「営利の目的」を含意するとまではいえず,結局法の趣旨目的等に照らして検討するべきであると考えられます。

もっとも,他に漁業法・水産資源保護法(東京高判平19.8.9高刑速平19-287),建設業法,質屋営業法などについても「営む」は営利目的を含むと解されており,営利目的の有無を問わないという相互銀行法がむしろ例外的といえます。

そして,旅行業法の目的(1条)に照らすと,「営む」は「営利の目的」を含むと考えるべきことは,前記(1)のとおりです。

イ 宅地建物取引業法・相互銀行法との比較

 また,旅行業法と宅地建物取引業法は制定も同年(昭和27年)であり,いずれも議員立法で制定され,当初は同じ登録制度を採用し(宅地建物取引業法はのち免許制度に変更),現在,営業保証金制度や資格制度を設けている点も共通です。

他方,相互銀行法も議員立法ですが,相互銀行業は営利の目的の有無によらず,多額の金銭を相当期間預かる金融業務であるから監督の必要性が高く,監督の適正を期することが同法の目的の筆頭に掲げられていることからすれば,営利の目的の有無によらず相互銀行法で規制するべき要請が強かったといえます。

そうすると,旅行業法は相互銀行法よりも宅地建物取引業法に親和性があり,宅地建物取引業法と同様に「営利の目的」を要すると考えるのが自然です。

ウ 旅行業法制定時の議論について

さらに,旅行業法についてみると,昭和27年の旅行業の制定時(当初は「旅行あっ旋業法」として制定),提案者である石村幸作参議院議員は,提案理由として「今や国民経済も着実に復興しつつあり、これに伴い外客来訪数が増加するのは勿論、邦人の国内旅行も日に多きを加えております。このため旅行あつ旋業者の数も急激に増加し、その中には悪質業者も少くなく、各地に旅行費用の詐取、客の携帯する主食、宿泊交通費等の一部の着服等々の被害を生じ、又外客に対するあつ旋の強要、あつ旋料の不当なる要求等の好ましからぬ事件を惹起している状態であります。」(参議院運輸委員会昭27.5.22)と述べており,詐取・着服・不当要求などによって不当な利益を得ようとする悪質業者の取り締まりが目的とされていたことは明らかであり,このようなおそれのない,営利目的がない場合まで規制する意図があったとはいえません。

加えて,提案者は制定当初~国鉄民営化まで設けられていた,国を適用除外とする規定につき「本法の適用の除外でありますが、この法律は国の行う事業には適用しないことになつております。ここに国とは、日本国有鉄道をさしておるわけでありますが、かかる規定を設けたのは、国有鉄道は営利を目的とする旅行あつせん業を営むものとは認められず、本法の適用を除外しても何らさしつかえないと思料されたからであります。」(衆議院運輸委員会昭27.5.30)と説明しており,この点からも営利を目的とせず旅行あっ旋業を行う場合には,旅行あっ旋業法による規制の必要はないとみていたといえます。

エ 適用除外の規定について

なお,この適用除外の規定は国鉄民営化に際し削除されています。宅地建物取引業法には,現在も国及び地方公共団体を適用除外とする規定がありますが(宅地建物取引業法78条1項),古物営業法,質屋営業法には適用除外の規定はありません。

そうすると,適用除外の規定は確認規定であると考えられます。

つまり,適用除外の規定がなかったとしても,国や地方公共団体は当該業を行うにあたり営利の目的がないため,法的に問題はないのですが,国や地方公共団体が当該業やそれに類似した行為を行うことが予想される場合,適用除外の規定がないと,法律の解釈を行う必要が生じて面倒です。

適用除外の規定を設けておくと,国や地方公共団体に違法の疑いがかかることを避けることができますから,業法の適用の有無が実務上問題となりうるような場合に限って,適用除外の規定は設けられるものであって,国や地方公共団体が当該業を行うことが予想されない場合は適用除外の規定を設ける必要はないため設けられないものと考えられます。

旅行業法についても,国鉄は旅行業を行うことがあり,営利の目的がないため実際は適用がないものの,旅行業を行う以上は旅行業法の適用の有無が実務上問題となりえたため適用除外の規定を設け,国鉄民営化後は国が旅行業を行うことは予想されなかったため,適用除外の規定が削除されたとみられます。

また,地方公共団体が旅行業該当行為を行うことは当初から予想されなかったため,適用除外の規定は国のみであったといえます。

オ 国会答弁や運用について

旅行業法については,従前,観光庁等において,旅行業法に基づく登録義務は,営利の目的の有無を問わず旅行業を行う場合に必要となる旨の国会答弁がなされ,またそのような旅行業法施行要領が運用されてきました。

しかし,宅地建物取引業法についても,前記最決昭48.7.7集刑189-341,最決昭49.12.16刑集28-10-833の前には,営利目的の有無を問わず,宅地建物取引業を行う場合は登録を要する旨の国会答弁がされていましたし(衆議院建設委員会昭和43年5月8日),そのように運用されてきたとみられます。

それでも,最高裁において,宅地建物取引業を営むとは,営利の目的で宅地建物取引業を行うという意味である旨の判断が示されていますので,旅行業法について前記のとおりの国会答弁や運用がなされていたことから,旅行業法についても高松高裁の判断が誤りであるということはできません。

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