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2017年8月 2日 (水)

旅行業法とサマーキャンプ問題:1 旅行業法の規制方法

1 旅行業法の規制方法

(1)旅行業法の概要

旅行業法は,「旅行業等を営む者について登録制度を実施」するなどして「旅行業務に関する取引の公正の維持、旅行の安全の確保及び旅行者の利便の増進を図ることを目的とする」法律です(同法1条)。

そして,第2条1項で「旅行業」の定義を置き,第3条で「旅行業又は旅行業者代理業を営もうとする者」の登録義務を定めています。

登録をしないまま「旅行業を営んだ者」に対しては,100万円以下の罰金刑が定められています(同法29条1号)。

ちなみに,同法29条1号は,「旅行業を営んだ者」としか書いていないため,文言上「旅行業者代理業を営んだ者」は無登録でも処罰されないことになります。

 

(2)旅行業法の登録制度の概要

旅行業法に言う「旅行業」とは,第2条1項柱書において「報酬を得て、次に掲げる行為を行う事業」をいうとされていますので,ア「報酬を得て」イ「次に掲げる行為を行う」ウ「事業」をいいます。

さらに,第3条は「旅行業又は旅行業者代理業を営もうとする者は、観光庁長官の行う登録を受けなければならない」としていますから,旅行業を,エ 「営もうとする者」に登録する義務があります。

そうすると,登録義務があるのは,ア「報酬を得て」イ「次に掲げる行為を行う」ウ「事業を」エ「営もうとする者」となります。

なお,引用する裁判例は次のとおりです。

①松山簡判平23.11.24

②高松高判平25.1.29高刑速平25-259

③最高裁平25.4.4

④松山簡判平27.3.24

⑤高松高判平27.10.8高刑速平27-335

⑥最決平28.2.26

⑦東京高判平26.6.20高刑速平26-67

⑧最判平27.12.7

(①~⑥,⑦⑧はそれぞれ一連の事件です。)

 

ア 「報酬を得て」

「報酬を得て」は,イの一定の行為を行うことによる対価を得てという意味であるとされています(裁判例⑦)。

そして,結果として利益を生ずることは不要とされています(裁判例①,②。③は上告棄却)。

そうすると,交通機関や宿泊施設に支払うべき金銭を「預かっている」にとどまる場合は「報酬」に当たらないものの,参加者から金銭を受領して収入とし,その一部を交通機関や宿泊施設に自ら支出する場合は,当該収入を得ることで「報酬を得て」に該当すると考えられます

なお,その収入が支出に足りない場合は「報酬を得て」にあたらないとの見解もありうるとは思われますが,過去の裁判例に照らすと「報酬を得て」に該当すると判断される可能性は否定できません。

また,参加者からは報酬を得ていなくても,交通機関等から報酬,手数料等の金銭を受領している場合は,「報酬を得て」に該当します(裁判例⑦。⑧は上告棄却)。

 

イ 「次に掲げる行為を行う」

同法2条1項各号に定める一定の行為を行うことをいいます。

代表的なものは,いわゆるパックツアーの販売・実施ですし,今回問題になっている自然体験キャンプなどもパックツアーに該当するため問題になっていますから,ここではこの点のみ検討します。

1号に規定があり,要約すると旅行の目的地や日程,利用する運送サービス等(交通手段や宿泊施設),参加費を,参加者を募集するためあらかじめ作成し,さらに運送サービス等を提供する者(交通機関や宿泊施設)と自己の計算において契約する行為とされています。

「旅行」とは「人が住む土地を離れて一時的に他の土地に行くこと」をいい,「運送や宿泊の各サービスを利用して場所的に異動することや一定地域で逗留することを広く含む」ものとされます(裁判例②)。

「募集」は「不特定又は多数の者に対して,旅行の参加の申込みを勧誘する行為」をいいます(裁判例①。②も同旨)。なお,修学旅行や職場旅行,町内会のバスツアーなどは,勧誘する対象が「不特定」でも「多数」でもないため,「募集」にあたらないと解されます。

「自己の計算において」は「その全部の経済的効果を自らに帰属させること」をいい(裁判例②),交通機関等との契約や,費用の支払を参加者ではなく自らの名義で行う場合は認められると考えられます。

「運送等サービスを提供する者」は,交通機関や宿泊施設だけでなく,「間接的に運送等サービスを提供する者」も含まれるとされ(裁判例②),交通機関等を手配する他の旅行業者などを通じて手配する場合も旅行業に該当することになります。

 

ウ 「事業」

「事業」とは,「反復継続する意思を持って一定の行為を行うこと」をいい,収益が上がることはその要件ではありません(裁判例①,②)。

裁判例①,②は,旅行業該当行為を含む年1回のバイクツアーを2年にわたって行い,その後も継続する意思があったが,赤字ないし不採算のため2年2回で中止したという例ですが,事業性が肯定されました。ただし,旅行業該当行為を含まないバイクツアーを日本国内外で実施してきた経緯も踏まえての判断です。

年1回は少ないようにも見えますが,頻度はあくまで「反復継続する意思を持って」いたことを推認させる要素に過ぎず,1回行っただけでも,「反復継続する意思を持って」行った場合は事業に該当するというのが判例ですから,年1回でも毎年同じ時期に行うことを予定していた場合には,「反復継続する意思を持って」したと評価されることは否定できません。

 

エ 「営もうとする者」

ここでいう「旅行業に該当する行為を営むとは,営利の目的で,旅行業に該当する行為を行うこと」をいいます(裁判例②)。

そうすると,「営もうとする者」は,「営利の目的で,行おうとする者」という意味になりますから,実質的には旅行業を行うにつき「営利の目的」を有することを求める要件となります。

この「営む」の解釈につき,裁判例②の判示が正当であることは3で詳述します。

また,この「営利の目的」は,4で後述するとおり,財産上の利益を得ることを目的とすることをいいます。

そして,旅行業該当行為の部分とイベント部分を一体のツアーとして包括料金を得ている場合は,ツアー全体が営利目的であるかどうかを判断し,ツアー全体が営利の目的で行われる場合は,旅行業該当部分も営利の目的であると判断すべきであるとされています(裁判例⑤)。

 

オ 小括

以上から,旅行業法に基づいて登録義務を負うのは,次の[1][4]の4要件をすべて備える場合に限られます。

 

[1]報酬を得ること

 =次の[2]の行為による対価を得ること

[2]同法2条1項各号の行為を行うこと

 [2-1]「募集」のため=勧誘対象は不特定又は多数の者

 [2-2]「旅行」の計画を定めること

 [2-3]「自己の計算において」

 [2-4]「運送等サービスを提供する者」と契約すること

[3]事業であること

  =反復継続する意思を持ってすること

[4]営利の目的があること

 =財産上の利益を得ることを目的とすること

 

(3)自然体験キャンプと旅行業法

自然体験キャンプでよくある形式は,

 

・参加者又はその保護者から一定の参加費を徴収し,

・参加の申込みを勧誘するため,出発日や交通手段・活動内容・宿泊地・参加費などを定め,主催者が自らの名義で直接又は旅行業者を利用して交通機関や宿泊施設を手配し,その費用を支払い,

・例年継続的に行われる。

 

ものです。

 

ア 参加費が報酬にあたるか

参加費の点は,活動内容と参加費の額によって判断が異なります。

2泊3日のキャンプで参加費が1人2000円にとどまる神奈川県開成町のように,食費程度しか徴収しておらず,交通費や宿泊費は主催者が負担しているとみられるものについては,そもそも運送等サービスを手配することとの対価関係がなく,「報酬を得て」の要件を満たさないと解されます。

他方,2万2000円~5万8000円の参加費を徴収していた川崎市のふれあいサマーキャンプのような場合は,交通費や宿泊費を全額賄ってなお余るだけの参加費を徴収しているかどうかは疑問が残りますが,その内訳が明確でないため,「報酬を得て」の要件に該当する可能性は否定できません。

 

イ 同法2条1項1号の行為にあたるか

「募集」の点につき,勧誘する対象が不特定又は多数といえるかが問題となります。

小学校が1校しかないか,複数あっても定期的な学校間の交流があるような小規模な町村において,当該町村内の小中学生を対象に行うような場合には,勧誘する対象が不特定ではなく,多数でもないといえるかもしれませんが,学校以外が行う場合には,「募集」に該当する可能性は否定できません。

また,政令指定都市のように勧誘する対象となる小中学生が多くの学校に分かれており,通常交流がないような場合には,勧誘対象が少なくとも多数であるとして,「募集」にあたる可能性が高いとみられます。

「募集」に該当する場合,同法2条1項1号に該当するといえるでしょう。

 

ウ 事業にあたるか

前記のとおり,年1回ながら例年行う予定であったもの(実際には2年2回で終了)について,事業性が認められた例があります(裁判例②)。

そうすると,その頻度によらず,定例の行事として反復・継続する見込みがある場合は事業に該当すると考えられ,年1回の開催であっても,それが毎年定例的に行われるものであれば,事業性が認められる可能性は少なくないとみられます。

なお,川崎市の例は1990年から毎年夏に数コースを実施していたとのことであり,事業性は優に認められると考えられます。

 

エ 営利目的があるか

主催者が地方自治体である場合,これらの事業は教育目的で行われるものと考えられ,営利の目的でこれらの事業を行うことは通常考えにくいといえます。

特に,地方自治体やその外郭団体等が行う場合,事前の準備費用(下見や募集,申し込みの受付などの費用,人件費等)やスタッフの参加費用などは主催者である地方自治体等が負担し,活動そのもののいわゆる実費(交通費,宿泊費,食費,活動費等)についても,その一部を地方自治体等が負担することが多いと考えられます。

このように,主催者である地方自治体等は,自然体験キャンプを行うことで,全体として収入よりも支出が多いことを予定しており,参加者から徴収する参加費等の収入が支出を上回るよう参加費等を設定しないのが通常ですから,そのような場合には,自然体験キャンプを行うことで財産上の利益を得る目的,すなわち営利の目的があったとはいえず,ひいては旅行業該当部分についても営利の目的があったとはいえません。

なお,主催者が地方自治体でない場合についても,自然体験キャンプの収支の見込みを考察し,自然体験キャンプを行うことで財産上の利益を得る見込みがあったといえるかどうかを判断すべきことになります。

その際,公益法人が行う公益目的事業については,「その公益目的事業を行うに当たり、当該公益目的事業の実施に要する適正な費用を償う額を超える収入を得てはならない」(公益法人認定法14条)という要件が課され,行政庁がそのような見込みがある場合と認めた場合に限って公益認定がされますから(同法5条6号),収入が支出を超えない見込みである以上,財産上の利益を得る見込みはなく,営利の目的はないのが通常であるといえます。

他方,株式会社がその事業として,又はその事業のためにする行為は,商行為とされており(会社法5条),商行為は営利の目的を伴う行為ですから,営利の目的があるのが通常であると考えられます(裁判例⑤も同様の前提で判断しているとみられます)。

 

オ 小括

自然体験キャンプが旅行業法上の登録なしに行い得るのは,次のような場合となります(○は無登録営業にあたらないことが明らかな場合,△は無登録営業にあたらない可能性がある場合。なお,いずれか1つにでも該当すれば適法である。)。

これをみると,今回問題となった自然体験キャンプのうち,神奈川県開成町のように参加費がごく低廉な場合は「報酬を得て」に当たらないとして適法に実施できますが,その他については旅行業に該当すると判断されるおそれがあり,あくまで「営利の目的」がないために適法に実施しうるというほかありません。

 

(「報酬を得て」に当たらない場合)

○交通費及び宿泊費を全額,主催者が負担していることが明らかな場合

△交通費及び宿泊費に充てる部分を預り金として処理しており,かつ,他に報酬を得ているとみるべき事情がない場合

△参加費が交通費及び宿泊費の実費を超えないことが明らかな場合

 

(「募集」に当たらない場合)

△小学校が1校しかないか,複数あっても定期的に学校を超えた児童・生徒間の交流があるような小規模な市町村において,当該市町村内の小中学生を対象に行うような場合

 

(「事業」に当たらない場合)

○1回実施するのみで,過去に同様のイベントを実施しておらず,将来にわたって同様のイベントを実施する見込みがないことが明らかな場合

 

(「営利の目的で」に当たらない場合)

○地方自治体やその外郭団体等が主催し,当該イベントの収支差額の穴埋めのために一定の公費支出が見込まれている場合

○公益法人が公益目的事業として実施しており,公益法人認定法14条違反など同法の公益認定の潜脱がない場合

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