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2017年8月 2日 (水)

旅行業法とサマーキャンプ問題:2旅行業法をめぐる観光庁の運用の問題

2 旅行業法をめぐる観光庁の運用の問題

(1)旅行業法施行要領について

ア 旅行業法施行要領は観光庁の通達ですが,その「第1 定義(法第2条)」「1 旅行業(法第2条第1校)」の2)に「国、地方公共団体、公的団体又は非営利団体が実施する事業であったとしても、報酬を得て法第2条第1項各号に掲げる行為を行うのであれば旅行業の登録が必要である。」との記載があります。

この文言は,国,地方公共団体,公的団体又は非営利団体という通常営利を目的としない団体であっても,旅行業を行うのであれば旅行業の登録が必要であると述べているものであり,「営利の目的」の有無によらず,旅行業法3条の登録義務があると解釈しうるものです。

実際,観光庁の従前の運用は,営利の目的の有無によらず,旅行業を行うには登録の必要があるというものであり,国土交通省関東運輸局のウェブサイトには,「旅行業を行うには旅行業法に基づき,登録を行う必要があります。」との記載があり,旅行業法の文言が「営む」であるにもかかわらず,営利の目的の有無を問わないと解される「行う」だけでも登録義務があるという誤った記載がなされています。

イ たしかに,旅行業法には宅地建物取引業78条1項のような適用除外の規定はありませんから,国や地方公共団体,公的団体又は非営利団体といえども,実質的に見て営利の目的で旅行業該当行為を行っているとみられる場合には,旅行業法上の無登録営業となることは否定できません。

ウ しかし,現在の旅行業法施行要領の記載は,営利の目的の有無を問わず,旅行業該当行為を行うだけで登録義務があるという誤った解釈をさせるものです。

そもそも,国民に義務を課し,国民の権利を制限するには,国会で定められた法律によらなければならない,というのが法治主義の原則です。

そして,営利の目的なく旅行業該当行為を行う場合について,旅行業法は何ら規制するものではありませんから,法律ではない旅行業法施行要領によって,営利の目的なく旅行業該当行為を行う場合まで規制することはできません。

エ したがって,このような誤解を招く旅行業法施行要領第2の1の2)の規定は,違法のおそれがあり,少なくとも「報酬を得て」の前に「営利の目的で」との文言を追加すべきです。

 

(2)7月28日付通知について

ア 7月28日付通知とは

観光庁は,今回の一連のサマーキャンプ中止問題を受け,平成29年7月28日に「自治体が関与するツアー実施に係る旅行業法上の取扱いについて(通知)」と題する通知(観観産第173号,「7月28日付通知」といいます。)を発しました。

この通知は,旅行業法の適用につき,営利性が問題となることを指摘した点では評価できますが,旅行業法の解釈を誤ったものであり,かえって現場に混乱をもたらしかねないものであると考えます。

 

イ 問題点①=旅行業法に抵触するか否かの判断枠組みの誤り

(ア)前記のとおり,旅行業法上の登録をしなければならないのは,次の[1][4]の4要件をすべて満たす場合であって,いずれか1つでも要件を満たさないものがあれば,登録義務はありません。

 

[1]報酬を得ること

[2]同法2条1項各号の行為を行うこと

[3]事業であること

[4]営利の目的があること

 

(イ)しかし,7月28日付通知は,「自治体がツアーの実施に関与する場合のうち,下記1.のように自治体が実質的にツアーの企画・運営に関与し,かつ営利性,事業性がないものであれば,旅行業法の適用がない」とし,さらに「自治体が関与するツアーについて,実質的に企画・運営するものであることが必要である。参加費等名目を問わず参加者から徴収する金員では,収支を償うことができないこと,日常的に反復継続して行われるものでないこと,不特定多数の者に募集を行うものでないことは,営利性,事業性がないことを裏付けるものとして,当然に求められる。」としています。

この文言は,次のすべての要件を満たす場合に限り,旅行業法の適用がないという解釈であると考えられます。

 

<1>自治体が実質的にツアーの企画・運営に関与すること

<2>参加費等名目を問わず参加者から徴収する金員では,収支を償うことができないこと

<3>日常的に反復継続して行われるものではないこと

<4>不特定多数の者に募集を行うものでないこと

 

(ウ)まず,<1>の要件は,前記[1][4]の要件と無関係です。自治体が単に募集・受付・参加費の徴収等のみを行い,ツアーの企画・運営に関与しなかったとしても,旅行業に該当するというのが旅行業法施行要領の立場であり(同要領第1の2の3)(3)イ)及びハ)),まして実質的にツアーの企画・運営に関与すれば旅行業に該当することは言うまでもありません。

また,自治体が実質的に関与するかどうかによって,自治体の営利の目的の判断が変わることもありません。

したがって,<1>の要件は,旅行業法の登録義務に無関係です。

なお,ツアーにおける安全確保等の観点から,自治体が実質的に企画・運営に関与すべき要請があることは否定しません。

(エ)次に,<2>の要件は,前記[4]の要件と関係します。

<2>の要件を満たす場合,[4]について営利の目的はないといえますから,これだけで旅行業法の登録義務はないことになります。

したがって,<2>の要件は,それ単独で旅行業法の適用がないことの理由となり,他の要件は不要となります。

(オ)さらに,<3>の要件は,前記[3]の要件と関係します。

反復継続して行われるものではなく,その見込みもなければ,[3]について事業性がないといえますから,これだけで旅行業法の登録義務はないことになります。

したがって,<3>の要件は,それ単独で旅行業法の適用がないことの理由となり,他の要件は不要となります。

ただし,裁判所は単に「反復継続する意思をもって一定の行為を行う」といえるかどうかで判断しており,「日常的に反復継続」という文言が,単なる「反復継続」に比べて高い頻度を要するという趣旨であれば,旅行業法の「事業」の意義を狭く解釈する誤りがあるといえます。

(カ)最後に,<4>の要件は,前記[2]の要件と関係します。

不特定多数の者に募集を行うものでなければ,[2]の「募集」にあたりませんから,これだけで旅行業法の登録義務はないことになります。

したがって,<4>の要件は,それ単独で旅行業法の適用がないことの理由となり,他の要件は不要となります。

なお,付け加えると,7月28日付通知ではこの要件は「営利性,事業性がないこと」の裏付けであるかのように記載されていますが,これは前記[2]の同法2条1項各号の行為にあたらないことの裏付けであり,「営利性,事業性がないこと」を根拠づけるものではありません。

(キ)以上のとおり,7月28日付通知の示す4要件のうち,<1>は無関係の要件であり,<2><3><4>はいずれか1つでも満たせば,旅行業法上の登録義務はないというべきであるのに,すべてを満たす必要があるかのように記載し,さらに[1](報酬)の要件について言及していない,という誤りがあります(ただし,[1]を広く解した場合,[1]を満たさないならば[4]も満たさないと思われます)。

このように,7月28日付通知の示す旅行業法に抵触するか否かの判断枠組みには誤りがあります。それにもかかわらず,これらの各要件がすべて「当然に求められる」などとする記載は,現場を混乱させ,かえって自治体等の行う自然体験キャンプなどの活動を委縮させるものです。

 

ウ 問題点②=挙げられている例は営利性と無関係である

(ア)7月28日付通知は,「自治体が関与するツアーで認められる例」として4例を挙げています。

しかし,以下述べるとおり,これらはいずれも,営利目的の有無は問わないとする従前の観光庁の解釈を前提にしても問題のない事例ばかりであり,また適法であるとする根拠については疑問の残る例です。

なお,例のうち,「対象」は「不特定多数の者に募集を行うものでない」ものの例,「頻度」は「日常的に反復継続して行われるものでない」(事業性がない)ものの例,「形態」「参加費/回」は「参加者から徴収する金員では,収支を償うことができない」(営利性がない)ものの例,「主体」は「自治体が関与するツアーについて,実質的に企画・運営するものである」例を挙げるものとみられますので,それぞれ例として適切か順次検討していきます。

(イ)対象について(「不特定多数」でないといえるか)

4例の対象は,「市内の小中学生」「町内の小学生高学年~高校生」「市内の小学生」「市周辺居住の独身の男女」とあるところ,これは「募集」の要件に関し,これらの対象が「不特定又は多数」といえるかが問題となります。

「不特定」につき,出資法の「不特定」の意義について,所属員が相当多数であって親族・知己等といった個人的つながり等もなく、つまり個別的な認識もないような場合においては、単に一定の団体等に所属する者と限定しただけでは,特定したとはいえない,とした裁判例(福岡高判昭37.7.11判時313-26)があります。ただし,出資法は「不特定かつ多数」を要求しており,「不特定又は多数」ではありませんから、問題のある例を処罰するため、「不特定」を広く解している可能性はあります。

そうすると,多少緩やか解したとしても,同じ学校の生徒である,同じ町内会に所属しているなど,少なくとも1,2人を介することで個別的な認識を有しうるような場合でなければ,「特定」とは言い難いと考えられます。

前記の4例のうち,子どもを対象にする例は,市内又は町内に小学校が1つしかないか、複数の場合は数校にとどまりかつ相互に交流があって,人数もせいぜい数百人程度にとどまる場合であれば,「不特定」でも「多数」でもないといえるかもしれませんが,それ以外の場合には「不特定又は多数」に該当することは明らかといえましょう

また,「市周辺居住の独身の男女」は,1,2人を介することで個別的な認識を有し得るとは考えられず,「不特定」に当たる上,「市」は通常数万以上の人口を有し,その「周辺居住の独身の男女」は数千人に上ると見込まれますから,「多数」にもあたるとみられます。

以上のとおり,明らかに「不特定多数」でないといえる例はなく,「不特定多数の者に募集を行うものでないことは…当然に求められる」とする通知本文と矛盾します。

(ウ)頻度について(事業性がないといえるか)

頻度は,「年1回」と「年数回」が挙げられていますが,前記のとおり,年1回の開催であっても,それが毎年定例的に行われており,反復・継続される見込みがあれば事業性が認められる可能性は少なくないとみられ,まして年数回の場合は事業性が認められる可能性は高いといえます。

したがって,従前の裁判例に照らすと,明らかに「事業性がない」といえる例はなく,「日常的に反復継続して行われるものでないこと…は…事業性がないことを裏付けるものとして,当然に求められる」とする通知本文と矛盾します。

(エ)参加費及び形態について(営利性がないといえるか)

参加費及び形態は,バス移動+宿泊で5000円及び3000円の例,バス移動+キャンプでキャンプ代として1000円の例,バス移動+体験で昼食代+体験料として男性5000円,女性4000円の例が挙げられています。

このうち,バス移動+宿泊であれば,5000円及び3000円の参加費は,バス費用と宿泊費用を補って余りあるとは考えにくく,むしろ活動費用や食費相当額に過ぎない可能性もあります。これらの金額が活動費用や食費相当額に過ぎず,実質的にも参加費を活動費用や食費に充てる趣旨で徴収しているのであれば,そもそも運送等サービスの提供の対価を得ておらず,「報酬を得て」の要件を満たしません。また,いずれにせよ,この程度の参加費であれば「営利の目的」もありません。

次に,1000円の例は,キャンプ代として1000円はキャンプ費用として相当な金額といえますから,バス移動の費用は徴収していないといえます。この場合も「報酬を得て」の要件を満たしませんし,当然「営利の目的」もありません。

最後に,昼食代+体験料としての45000円ですが,この金額が昼食代+体験料として相当な金額であれば,バス移動の費用は徴収していないといえますから,「報酬を得て」の要件を満たしません。また,昼食代+体験料を多少超過するにせよ,バス移動の全額を賄うには足りないでしょうから,全体として参加費収入より支出の方が多いことが見込まれ,「営利の目的」はないといえます。

したがって,ここで挙げた例は,「参加者から徴収する金員では,収支を償うことができない」もので,「営利性がない」ものの例ともいえますが,そもそも営利性を問題とするまでもなく,「報酬を得て」の要件を満たさないため,従前の観光庁の運用でも適法であったとみられるものです。営利性をいうならば,「報酬を得て」の要件は満たすものの,参加費が支出を賄えないため「営利の目的」が認められない例を挙げるべきです。

(オ)主体について(自治体の関与の程度について)

主体については,教育委員会主催のほか,教育委員会が任意団体に委託,市役所が一般社団に委託という例が挙げられています。

もっとも,前記のとおり,自治体の関与の程度は旅行業法上の登録義務の有無とは関係がないため,これらの主体はかかるツアーが認められるかどうかには関係ありません。

なお,委託の例で,委託先である任意団体や一般社団が旅行業の登録をしていない場合,これら任意団体や一般社団においても旅行業法の登録義務が生じないことを確認しておくべきでしょう。任意団体や一般社団が無登録営業であったからといって,委託した教育委員会や市役所が刑事処分を受けるかどうかは事情によりますが(旅行業法違反(無登録営業)の共同正犯か教唆犯が成立することは考えられます),自治体が違法行為を助長するべきではありません。

そういった意味では,旅行業の登録をしてない株式会社を挙げなかったことは肯定的に受け止めてよいのかもしれません。

(カ)以上のとおり,「自治体が関与するツアーで認められる例」の対象及び頻度はそれぞれ,不特定多数に募集しないもの,事業性がないものの例として適切ではありません。

そうすると,これらは不特定多数に募集し,かつ事業性があると判断されるおそれのある例ですから,7月28日付通知の本文のとおり,自治体の関与+営利性なし+事業性なし+対象が不特定多数でない,の4要件がそろって初めて適法に実施しうるとすれば,これらの例はいずれも適法には実施しえない例であって,不適切です。

たしかに,旅行業法の適切な解釈に立った場合,4例はいずれも「報酬を得て」とはいえず,また「営利の目的」がないとみられるため,旅行業の登録なくして適法に実施しうるものです。

しかし,4例はいずれも今回の通知で言及された「営利の目的」を問題にするまでもなく,観光庁の従前の解釈を前提にしても「報酬を得て」の要件を欠くため適法に実施しえたものです。

より多額の参加費を徴収しており「報酬を得て」にあたるおそれはあっても,「営利の目的」が認められない程度の金額であるため適法に実施できるツアーを実施している自治体にとっては,このような少額の参加費の例だけを提示することは委縮効果をもたらすおそれがあります。

 

エ 小括

自然体験キャンプや婚活イベントといった自治体主催のツアーは教育・青少年育成や地域住民の交流など積極的な意義を有するものであり,旅行業法に抵触する場合は当然許されないにせよ,適法に実施しうるものまで委縮させることは地域住民の福祉を損ないます。

したがって,前記のとおり旅行業法の登録義務がある場合を誤って記載し,適切でない事例を載せた7月28日付通知は地域住民の福祉を損なうおそれのあるものであって,早急に旅行業法の適切な解釈に基づき,委縮効果をもたらさないような通知を発するべきです。

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