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2018年4月11日 (水)

奨学金問題・「自己破産予備軍」の人数について

先日,客観的に見て,自己破産しても不思議はない人を「自己破産予備軍」と称するならば,約30万人のうち約20万人は「自己破産予備軍」と呼んでよいのではないかと書きました。

この計算根拠についてご説明したいと思います。

①延滞者のうち「破産予備軍」:122,723人

資料:

・平成28年度奨学金の返還者に関する属性調査結果([A] 概要

・平成27年度奨学金の返還者に関する属性調査結果([B] 本文

計算:

資料[A]によると,平成28年度末に奨学金返還を3か月以上延滞している者(延滞者)は160,580人(概要Ⅰ)。

3か月間も延滞をするのは破産状態を疑うべきですが,上記の調査では延滞者にも若干収入の高い人がいます。そこで,延滞者の状況に応じて返済が難しそうな人だけを「破産予備軍」とすることとします。

資料[B]の25頁には,延滞者に対して今後の返還の見通しを聞いた調査結果があります。
お金を借りている先から,「今後お金を返せそうですか?」と聞かれれば,普通の人はできるだけ「返せます」と答えるのが通常でしょうが,それでも厳しいとの回答をする人が少なくありません。

選択肢は次の6つです。

  1. 決められた月額等を返還できると思う
  2. 決められた月額等の半額程度より多く返還できると思う
  3. 決められた月額等の半額程度返還できると思う
  4. 決められた月額等の半額程度より少ないが返還できると思う
  5. 返還できないと思う
  6. わからない

このうち,3~6は予定通り返せる見込みがなさそうであるとして,「破産予備軍」とします。表5-7-1からその割合は58.52%です。

また,本人の年収とクロス集計した表5-7-2では,1・2の人たちの相当部分は実際には年収が低く,本当に返せるのか疑問があります。
そこで,返せると回答している1・2の人のうち,年収0~200万円未満までの人も「破産予備軍」とします。その割合は17.91%です。

延滞者160,580人にこれらの割合を掛けると,122,723人となります。

②返還猶予利用者のうち「破産予備軍」:50,322人

資料:

・平成28年度業務実績等報告書([C] PDF

・平成26年度業務実績等報告書([D] PDF

・平成27年度債権管理・回収等検証委員会報告書([E] PDF

計算:

資料[C]45頁より,平成28年度の一般猶予承認件数は154,249件。
「一般猶予」は,返還期限猶予のうち,教育機関在学中以外の事情で返還期限を猶予するもので,その86%は生活困窮(低収入など)です。

ただし,これは1年間の承認件数で,短期間のものなども含まれているとみられることから,平成28年度末時点で一般猶予を利用している人数に補正する必要があります。

この点は正確な資料がありません。
同調査の平成26年度版である資料[D]26頁では,一般猶予承認件数は137,561件となっており,一方で資料[E]16頁では,利用期間別の平成26年度末の「返還期限猶予制度(うち経済困難等を理由とするもの)」の数が合計92,341となっていることから,

 154,249 ÷ 137,561 × 92,341 = 103,543人

が平成28年度末時点で一般猶予を利用している人数(又は件数)となります。

さらに,しばらく返還猶予制度を利用した後,通常通り返還できるようになる人も少なくありません。この人たちの中には「破産予備軍」とまでは言えない人も少なくないでしょう。

資料[E]16頁には減額返還・返還期限猶予制度を利用した人が2年後どうなっているかを調べた調査があり,返還期限猶予制度については,51.4%の人が2年後に返還完了又は通常返還無延滞となっています。

したがって,返還期限猶予者のうち,「破産予備軍」と推計できるのは103,543 ×(100% - 51.4%)= 50,322人となります。

③減額返還利用者のうち「破産予備軍」:7,983人

資料:②に同じ

計算:

基本的に②と同様です。

資料[C]44頁より,平成28年度の減額返還承認件数は21,013件。

 21,013 ÷ 137,561 × 92,341 = 14,105人

資料[E]16頁で,減額返還制度については,43.4%の人が2年後に返還完了又は通常返還無延滞となっているため,減額返還者のうち,「破産予備軍」と推計できるのは14,105×(100% - 43.4%)= 7,983人となります。

④代位弁済のあった人=「破産予備軍」:7,910人

資料:②に同じ

計算:

「代位弁済」とは,家族親族に連帯保証人,保証人になってもらう代わりに,保証機関(一般の保証会社ではなく,公益財団法人日本国際教育支援協会が行っています)に保証料を払って連帯保証してもらった人について,一定の延滞が生ずると保証機関が代わりに日本学生支援機構に奨学金を一括弁済するという仕組みです。

一定期間延滞が続いている方がこの代位弁済の対象となりますから,基本的に全員を「破産予備軍」としてよいと思われます。

資料[C]41頁より,平成28年度中の代位弁済件数は7,910件です。

本来は過年度分の代位弁済件数をどうするかという問題もありますが,さしあたり当年度分のみとしています。

まとめ

①延滞者のうち122,723人

②返還期限猶予制度利用者のうち50,322人

③減額返還制度利用者のうち7,983人

④代位弁済を受けた7,910人

を合わせた188,938人が「破産予備軍」と推計されます。

破産への抵抗感が強いことや保証人がいると迷惑が掛けられないとして破産を避けることが多いことなどから,この人たちの多くは破産を選択していないわけですが,返還困難時の救済制度を十分整備しなければ,さらに奨学金を原因とする破産が増加するおそれがあるということは踏まえて制度を検討していく必要があるでしょう。

ただし,このうち,②③の58,305人については,機構の返還困難時の救済策である返還期限猶予制度,減額返還制度により,破産の危機に直面せずに済んでいる,と評価することもできます。

このような制度が設けられていることは機構の奨学金制度の積極面として評価してよいと思いますが,他方で,それだけでは救済しきれないのではないか,という点は指摘しなければならないでしょう。

(補足)

上では「~人」と表記していますが,機構の発表している数字は無利子と有利子を併用した場合,大学と大学院で借りた場合などにダブルカウント,トリプルカウントになっている場合があります。そのため,「~人」とは書いてありますが,このような重複してカウントされている例が含まれている可能性があることはご承知おきください。

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