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2018年11月

2018年11月 2日 (金)

奨学金保証人への過大請求問題

奨学金制度を実施する日本学生支援機構が、保証人に対して本来は残債務の2分の1しか請求できないのに、全額を請求している問題を朝日新聞が取り上げています。
なお、この問題、当事者の方がいらっしゃいましたら、遠慮なくご相談ください(詳細は最後に)。

奨学金、保証人の義務「半額」なのに…説明せず全額請求
(諸永裕司、大津智義、2018年11月1日05時26分)

国の奨学金を借りた本人と連帯保証人の親が返せない場合に、保証人の親族らは未返還額の半分しか支払い義務がないのに、日本学生支援機構がその旨を伝えないまま、全額を請求していることがわかった。記録が残る過去8年間で延べ825人に総額約13億円を全額請求し、9割以上が応じたという。機構の回収手法に問題はないのか。

機構は奨学金を貸与する際、借りた本人が返せない場合に備え、連帯保証人1人(父か母)と保証人1人(4親等以内の親族)の計2人が返還義務を負う人的保証か、借りた本人が保証機関に一定の保証料を払い、返せない時に一時的に肩代わりしてもらう機関保証を求める。最近は半分近くが機関保証を選んでいるが、約426万人の返還者全体でみると7割近くが人的保証だ。

法務省によると、この場合、連帯保証人は本人と同じ全額を返す義務を負うが、保証人は2分の1になる。民法で、連帯保証人も含めて複数の保証人がいる場合、各保証人は等しい割合で義務を負うとされるためだ。「分別の利益」と呼ばれる。

 しかし機構は、本人と連帯保証人が返せないと判断した場合、保証人に分別の利益を知らせずに全額請求している。その際、返還に応じなければ法的措置をとる旨も伝えている。機構によると、2017年度までの8年間で延べ825人に全額請求した総額は約13億円で、9割以上が裁判などを経て応じた。機構は本人が大学と大学院で借りた場合などに2人と数え、「システム上、正確な人数は分からない」としている。(後略)

ちなみに私のコメントも載りました。

「分別の利益」知らせず奨学金を全額請求、専門家は批判

(前略)識者の間でも回収が重要であることに異論はない。ただ、その手法に対して、取材した専門家からは批判の声があがっている。

(中略)奨学金問題対策全国会議事務局次長の西川治弁護士は「今後、すでに返した半額分の払い戻しや減額を求める保証人が出てくれば、訴訟になる可能性もある」とみる。

要するには日本学生支援機構の奨学金では、本人と連帯保証人は全額返す義務があるものの、保証人は本人も連帯保証人も返せないときに、残債の2分の1だけ返す責任がある、ということです。

しかし、保証人の大半は、自分が法律上、2分の1しか返す義務があると知らないでしょう。日本学生支援機構はそれに付け込んで、全部返すように請求書を送り、挙句、裁判所でも全部返してくれと言っているのです。

「分別の利益」は、ほかに保証人(ここでは連帯保証人のこと。)がいれば、保証人の意思にかかわらず当然に認められるものです(もちろん、保証人が分別の利益を知りつつ、本人や連帯保証人が破産したり、延滞金を払わされたりするのはかわいそうだと考えて、全部支払うのは問題ありません)。

機構は、「抗弁」であると言い訳しています。
「抗弁」というのは、証拠がなく、裁判所が本当かどうか分からないときに、裁判所が借金を返せ、という側に有利な結論を書いていいというものをいいます。

代表例は、「弁済の抗弁」です。これは「借金はもう返したよ」というものです。裁判所では、証拠上、借金を返済したかどうか分からない(領収証がないときなど)と、「借金は返済されていない」(借金を返せ)と判断されてしまうのです。

借金取りが、実際には本人からお金を返してもらっているのに、それを黙って保証人にお金を返してくれ、と請求した場合、たとえば本人が行方不明になっていて、保証人がお金を返した証拠を出せないと、「保証人は全部返せ」という判決が出てしまうのです。

しかし、これは「詐欺」でしょう。

「抗弁だから問題ない」という機構や文科省の言い訳は、上のような本人から返してもらったのに、それを黙って保証人からお金を二重に取り立てる借金取りも「問題ない」と言っているのと同じなのです。

保証人の中にも、本人や連帯保証人を破産させるのは忍びないとして、法律上払う義務があるかどうかは脇に置いて、払ってくれる人もいるかもしれません。
しかし、日本学生支援機構としては、保証人に対し「あなたは保証人なので、全部払ってください」と言って保証人が全額支払わないといけないかのように請求するのではなく、「あなたが払わないといけないのは2分の1ですが、本人や連帯保証人も大変そうですし、奨学金事業を続けるためにも全部払っていただけないでしょうか?」とお伺いを立てるのが筋でしょう。

日本学生支援機構は独立行政法人であり、このような公的機関から「全部払ってくれ」と請求書がくれば、全部払わないといけないと誤解してしまう人が大半でしょう。
機構は、そのように誤解することを予想しながら、全額の請求書を送りつけ、全部支払わせているわけです。

私は、これを「過大請求」といっていいと思いますし、「詐欺」にすらなりかねないと考えています。

奨学金事業は、大事な事業です。
多くの学生を経済的に支援するため、1円でも多く回収したいということは、それ自体ダメだとは思いません。
しかし、保証人の善意を頼るのは構いませんが、保証人の法的知識の乏しさに付け込んで、騙すような形で無理やり回収することは許されないですし、奨学金事業に対する信頼性にも関わると考えています。

全額を請求された保証人の方がいらっしゃいましたら、ぜひご連絡ください(Tel 045-222-4401)。
法律家として、いろいろ考えていますが、支払ったうち、残っていた債務の半分を超える部分は取り戻せると考えています。
何より、このような不誠実な機構のやり方を是正させるには、国会での追及と裁判しかないと思います。
どちらの方法であれ、実例がないとできません。
ぜひご一報ください。

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