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2019年1月17日 (木)

統計手法を勝手に変えたら罪になる?

厚労省が毎月勤労統計の調査手法を勝手に変えていたということが問題になっています。

表向きは、従業員数が多い500人以上の規模の事業所はすべて調査している、としていたのですが、実際には2004年以降、東京都についておよそ3分の1を抽出調査していた、というものです。

抽出調査は全数調査と違い、抽出時に偏りが生じる可能性がありますから、全数調査と比べると信頼性が劣ることは言うまでもありません。
さらに、東京都では約3分の1の抽出調査を行っているわけですから、抽出した結果を約3倍してから全国平均を算出すべきところ、2017年12月まではこれをしないで全国平均を計算していたようです。
東京都の賃金は全国で一番高いので、このような計算をすると賃金の全国平均額が低くなってしまいます。
雇用保険、労災保険などでもらえるお金の金額は、賃金の変動に応じて変わってくるため、全国平均額が低く計算されると、もらえるお金も減ってしまいます。
一人当たりの金額は多くないかもしれませんが、影響を受ける人が約2000万人ともいわれ、総額で500億円以上少なくなっていたと報道されています。

ところで、統計手法を勝手に変えることは問題ないのでしょうか。
政府が行う統計は特に信頼性が求められるので、「統計法」という法律でルールが決められています。
特に重要な統計を「基幹統計」と名付け、調査方法等は総務大臣に承認を得ることとされています(統計法9条)。
また、統計は定期的に続けることが大事なので、総務大臣の承認を得ずに、勝手に調査方法等を変更したり、中止したりすることはできません(統計法11条1項)。
その代わりに、統計を行う際には国民に報告義務を課し、さらに必要に応じて立ち入り検査をする権限まで与えられています(統計法15条1項)。

今回、厚生労働省は総務大臣に承認してもらった統計の方法を勝手に変えたわけですから、統計法11条1項違反といえるでしょう。

さらに、勝手に統計手法を変えた担当者は、統計法違反といて罪に問われる可能性があります。

第六十条 次の各号のいずれかに該当する者は、六月以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。

一 (略)

二 基幹統計の作成に従事する者で基幹統計をして真実に反するものたらしめる行為をした者

毎月勤労統計は「基幹統計」とされています。
統計を見る人は、公表されている統計手法のとおり統計が作成されていると信じてデータを確認しますから、勝手に統計手法を変えることは、「真実に反する」統計データを生み出してしまう行為といえます。

そうすると、基幹統計について、担当者が勝手に統計手法を変えることは、上記統計法60条2号の「基幹統計の作成に従事する者で基幹統計をして真実に反するものたらしめる行為をした者」にあたり、六月以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処されるおそれがあります。
当然、勝手に統計手法を変えた担当者は国家公務員として懲戒処分を受ける可能性もあるわけですが、さらに刑事処分を受けてしまう可能性もあるわけです。

調べたところ、統計法違反で有罪となった事件が判例集に載っていました。

本判決は、昭和45年10月1日に施行された国勢調査に関し、北海道羽幌町で発生したわが国勢調査史上初の大がかりな人口水増事件の控訴審判決である。(略)羽幌町では過疎の波が押し寄せる中で市制化実現の夢を捨てきれず、町長が(略)部長会議の席上、市制化実現に必要な人口数を確保できるように国勢調査の人口数を捜査するよう指示し、町役場の幹部総ぐるみで作業を進めたうえ、虚偽の人口数を支庁に提出した。
(判例タイムズ320号310頁解説)

実際の町の人口は約2.4万人ながら、人口約3.1万人と公表していたため、国勢調査で隣村との合併による市制化実現の余地が残る2.7~2.8万人に人口を大幅に水増ししたという事件で、町長はじめ助役、総務部長、国勢調査臨時室長が統計法違反、虚偽有印公文書作成等で起訴、有罪となりました(旭川地判昭48.6.27、札幌高判昭49.9.17。羽幌町は現在も町のまま。)。

重要な政府統計は信頼できることが前提です。
最初に変更した担当者はもう時効(時効期間3年)ですが、総務大臣に承認された方法通り調査しなかったことが違法で罪になると考えられますので、最近の担当者はまだ時効にならないでしょう。

個々に関与した担当者に刑事処分をするかどうかは、どのレベルから指示があったのかなどもあり、単純には決められませんが、やはり信頼第一の政府統計で勝手に統計手法が変えられていたということは大変深刻な問題です。

なお、統計法の罰則は他にもありますが、ほとんどは統計で書いてもらった個人情報を流用した場合など、政府統計を作成する際の個人や団体の情報を保護するため、秘密を洩らした担当者を処罰する規定です。
統計は大事な基礎資料で、政策をも左右することがあります。
私たちも統計調査には協力すべきですが、同時にこのような不正な統計手法にはしっかりと批判をしていく必要があるでしょう。

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