カテゴリー「ニュースと法律」の5件の記事

2018年8月19日 (日)

入れ歯安定剤と酒気帯び運転

酒気帯び運転で一審有罪になった男性が,使用していた「入れ歯安定剤に含まれるアルコールが検知された可能性がある」として,東京高裁で道路交通法違反(酒気帯び運転)について無罪になったそうです(読売新聞『「入れ歯安定剤でアルコール検知」酒気帯び無罪』8/19(日) 8:46配信)。

男性が使用した安定剤には16・9%のアルコールが含まれており,公判(裁判の審理)において再現実験をしたところ,飲酒していない状態にもかかわらず、安定剤を使用してから26分後に、呼気1リットル中0・15ミリ・グラムのアルコールが検知されたといいます。

酒気帯び運転は,道路交通法65条1項で禁止されています。

道路交通法65条1項

何人も、酒気を帯びて車両等を運転してはならない。

これに違反した場合,酒に酔っているかどうかで次のいずれかの処罰がなされます。

道路交通法117条の2

次の各号のいずれかに該当する者は、五年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。
一 第六十五条(酒気帯び運転等の禁止)第一項の規定に違反して車両等を運転した者で、その運転をした場合において酒に酔つた状態(アルコールの影響により正常な運転ができないおそれがある状態をいう。以下同じ。)にあつたもの
(以下略)

道路交通法117条の2の2

次の各号のいずれかに該当する者は、三年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
(略)
三 第六十五条(酒気帯び運転等の禁止)第一項の規定に違反して車両等(軽車両を除く。次号において同じ。)を運転した者で、その運転をした場合において身体に政令で定める程度以上にアルコールを保有する状態にあつたもの
(以下略)

ここで,いわゆる「酒気帯び運転」にあたる第117条の2の2第2号は「身体に政令で定める程度以上にアルコールを保有する状態にあつたもの」としていますから,呼気検査でアルコールが検出されたとしても,アルコールを「身体に保有」,つまり体の中にアルコールが入っていて,それが検出されたのでなければ「酒気帯び運転」になりません。

例えば,リステリンなどのマウスウオッシュにはエタノール(アルコール)が含まれているので,これでうがいをしてから呼気検査をすると,「酒気帯び運転」の基準を超えるアルコールが検知されることがあります。
しかし,このアルコールは口の中に残っているマウスウオッシュに含まれるエタノールが検出されただけですから「酒気帯び」とはいえません。

今回,入れ歯安定剤も口の中に入っているだけですから,入れ歯安定剤に含まれるエタノールが検出されただけなら「酒気帯び」にあたりません。
前夜に飲んだアルコールが原因,または原因の一つである可能性もあるかもしれませんが,前夜に飲んだアルコールが原因であると言い切れる,または入れ歯安定剤なしでも前夜に飲んだアルコールだけで呼気検査に引っかかっていたことが間違いない,と言い切れなければ有罪になりません。「疑わしきは被告人の利益に」です。

さて,ここまで読んで,飲酒した後はマウスウオッシュをして運転すれば捕まらない!と思った方,それは間違いです。
呼気検査前には水でうがいをしますので,マウスウオッシュは流れてしまうのです。

また,入れ歯安定剤は流れにくいですが,入れ歯を付けていない方がわざわざ入れ歯安定剤を塗っておくのは不自然です。入れ歯をしている方についても,今後は呼気検査前に入れ歯安定剤などは確実に除去させるとか,入れ歯の方が呼気検査でアルコールが検出されると,速やかに血液検査も実施するなどの対応がなされると思います。

そもそも,なぜ酒気帯び運転が違法なのかというと,酒気帯び運転が安全運転を困難にするからです。仮に酒気帯び運転が警察に分からなかったとしても,事故を起こせば被害者に迷惑を掛け,運転者も相応の責任を負いますから,お酒を飲んだら運転しない,翌朝運転するなら前夜の酒量は控えるといったことをきっちり守りましょう。

2018年6月 7日 (木)

「1週間前までに」はいつまでか?

総会や大会の案内を,「●日前まで」「●週間前まで」に送らなければならない,とあった場合,いつまでに送ればOKでしょうか。

たとえば,「1週間前まで」と言えば,前の週の同じ曜日に送れば大丈夫そうに思えます。
実際,裁判所に書面を提出する場合,「書面は次回期日の1週間前まで」と指定されることが多いのですが,それは通常前の週の同じ曜日の日のうちに提出,という意味です。

次に裁判所に行く日が6月13日(水)であれば,6月6日(水)が終わるまで(24時になるまで)に書面を提出(FAXで送る)すれば締め切りを守ったことになります。

ところが,厳密にはこれではダメなのです。例えば,一般社団法人の社員総会は1週間前までに通知を発する(発送する)必要があります。

(一般社団法人及び一般財団法人に関する法律第39条1項本文)

社員総会を招集するには、理事は、社員総会の日の一週間前までに、社員に対してその通知を発しなければならない。

この場合,前の週の同じ曜日ではなく,その前日に送らなければならないとされています。6月13日(水)が社員総会なら,6月5日(火)までに発送しないといけないのです。

一見奇妙に見えるかもしれませんが,民法の原則に従って計算すると,確かにこれで正しいのです。

社員総会の日の「1週間前までに発送」ということは,逆に言えば「発送から1週間後まで」は社員総会を開いてはいけないということです。そこで「発送から1週間後」はいつかを考えるとします。まず,

(民法第140条)

日、週、月又は年によって期間を定めたときは、期間の初日は、算入しない。ただし、その期間が午前零時から始まるときは、この限りでない。

がありますから,発送した日(例えば6月5日)は算入せず,翌日(同6月6日)からカウントします。次に,

(民法第143条)

1項
週、月又は年によって期間を定めたときは、その期間は、暦に従って計算する。

2項本文
週、月又は年の初めから期間を起算しないときは、その期間は、最後の週、月又は年においてその起算日に応当する日の前日に満了する。

を適用すると,6月6日(水)の1週間後(「最後の週」)に6日(水)に応当する日(=同じ曜日のこと)である13日(水)の前日,つまり12日(火)に期間満了となります。

ところで,期間の満了は

(民法第141条)

前条の場合には、期間は、その末日の終了をもって満了する。

とあるとおり,期間の最後の日(今回は12日)が終わったときとされていますから,12日が終わったときに「発送から1週間」が終わったことになります。

そうすると,社員総会を開くことができる「発送から1週間後」というのは,6月5日(火)発送なら13日(水)の午前0時からということになります。

この考え方については,戦前の最高裁判所にあたる大審院が昭和10年7月15日の判決で株主総会の2週間前までに招集通知を発することを求める商法156条第1項(当時)の規定について「通知書を発したる日の翌日より起算して会日迄の間に少くとも2週間の日数を存したる場合に非ざれば其の通知は違法なり」と述べ,発送した翌日から2週間は開催できないと明確にしています。

当然,「1か月前まで」は前月の1つ前の日付までとなりますし(6月7日開催なら,5月6日までに発送),「5日前まで」なら6日戻ることになります(6月7日開催なら,6月1日までに発送)。

この判決では,通知が遅れたことを理由にして株主総会の決議は違法で無効としています。1日遅れくらいと思っていると,株主総会や社員総会などの決議が無効とされ,組織運営に重大な問題を来すおそれがあります。

うっかり遅れた場合,出席できる人全員の同意を得られれば(同意を得られれば出席してもらえなくてもよい),通知が遅れても予定通り開催できる場合が多いようですが,1人でも了解が得られなければ日にちを改めて開催することになります。

完全な任意団体ならよほどのことがない限り問題ないかもしれませんが,会社や一般社団・財団法人,マンションの管理組合など,法律に根拠のある団体については特にご注意ください。

2017年12月22日 (金)

1か月分タダ働き?(横綱への給与不支給について)

大相撲の暴行事件をめぐって,横綱2名に対し,1月の給与不支給の処分がされるそうです。
暴行事件やその後ゴタゴタにコメントする気はありませんし,力士の場合は相撲部屋に所属力士数に応じてお金が出ているため,それで横綱が生活に困るわけではないようです。

しかし,普通の勤労者にとって,1か月分の給与を1円ももらえないとなると生活に重大な影響がありますから,非常に重い制裁です。
悪いことをして出勤停止になればともかく,1か月普通に仕事をしながら給与はゼロといわれると辛いですね。

そこで,労働基準法91条は次のように減給の上限を決めています。

就業規則で、労働者に対して減給の制裁を定める場合においては、その減給は、一回の額が平均賃金の一日分の半額を超え、総額が一賃金支払期における賃金の総額の十分の一を超えてはならない。

平均賃金は,3か月間にもらった賃金を3か月間の日数(休日を含む)で割った額ですから,残業代等を含めて月給が30万円であれば,平均賃金は約1万円になります。
その場合,減給の上限は1回につき平均賃金の半額である約5000円まで,1か月の間に複数回減給されたとしても,その合計額は月給の10分の1である3万円まで,と制限されることになります。
当然,1か月分の給与をゼロにするということは許されません。

ただし,これは働いたのに給与を払わない,という場合です。
出勤停止処分であれば,そもそも働いていませんから給与は発生しません。
なお,上記いずれの制裁も,減給や出勤停止をするだけの処分理由が認められなければ許されません。
減給や出勤停止は解雇ほどではないものの相当に重い制裁ですので,それに見合った処分理由が必要となります。

もし,従業員間で酒席での暴行事件があったとしても,大相撲にならって1か月間タダ働きだ!と処分すると大変なことになります。暴行の程度や経緯,反省状況等に照らして,減給はそもそも許されないという場合もありますし,仮に減給がやむを得ないとしても平均賃金の半額を除いた額は支払い義務が残ります。
さらに,労働基準法91条違反の減給には刑事罰が用意されています(同法120条により30万円以下の罰金)。

ちなみに,労働基準法は「労働者」にしか適用されません。
労働基準法にいう「労働者」とは,「職業の種類を問わず、事業又は事務所に使用される者で、賃金を支払われる者」をいいます(同法9条)。
もっとも,実態は「労働者」なのに,契約の形式上は「労働契約」以外の契約になっているなど,「労働者」といえるのかどうかが問題となる例は昔から少なくありません。

大相撲の力士は日本相撲協会と「力士所属契約」という契約をしているそうですが,これが労働契約なのかどうかが争われた事件は複数あります。

○東京地裁平成24年5月24日判決(判タ1393-138)
無気力相撲を理由に解雇された元十両の事案です。
無気力相撲による解雇は有効であるとして,力士所属契約の性質について判断せずに元十両敗訴としました(控訴後も結論は同じ。)。
労働契約の方が解雇は厳格に判断されるため,仮に労働契約であるとしても解雇が有効なのであれば,力士所属契約が労働契約でなかったとしてもやはり解雇(契約解除)は有効である,という論法です。

○東京地裁平成22年4月19日判決(判タ1346-164)
大麻使用を利用として解雇された元幕内・元十両力士の事案です。
これも大麻使用を理由とした解雇は有効であるとして,力士所属契約の性質について判断せずに元力士敗訴としました。

○東京地裁平成25年3月25日判決(判タ1399-94)
無気力相撲を理由に解雇された元幕内力士の事案です。
裁判所は力士所属契約は典型的な雇用契約でも準委任契約でもなく,「有償双務契約としての性質を有する私法上の無名契約」であると述べ,相撲協会の定めた懲罰規定にしたがって解雇の有効性を判断していますが,それにあたっては労働契約における解雇についての考え方を考慮すべきとしています(結論は解雇無効)。

○東京地裁平成25年9月12日判決(判タ1418-207)
野球賭博問題で解雇された元大関の事案です。
裁判所は力士所属契約は「準委任契約と労働契約の双方の性質を有する無名契約である」として労働契約の性質を有することを認めつつ,労働契約の性質が強いとしても,懲戒解雇は有効であるとしました(元大関が敗訴,控訴審も同じ)。

○東京地裁平成23年2月25日決定(労判1029-86)
親方に引退届を提出された幕下力士の事案です。
幕下力士は「有給」とされていますが,「本場所手当」(1場所15万円)しか支給されていないことなどを考慮して「労働契約」ではないと判断しました(結論としては準委任契約類似の契約であるが,力士から引退の申出があったとは認められないとして,契約の継続を認めました。)。

以上のとおり,明確に労働契約と認めた例はありませんが,東京地裁平成25年9月12日判決が労働契約の要素を有するとしていることからすると,労働基準法が適用される可能性がないとはいえません。
そういった意味では,初場所のある1月に給与不支給とするのは,仮にそれだけの重大事案であるとしても,労働基準法91条違反の可能性がありうるのではないでしょうか。

2017年11月30日 (木)

無賃乗車と逮捕(別件)

先日,キセル乗車と逮捕について書きましたが,今度は無賃乗車した本人が逮捕されました。

品川駅(東京都港区)から博多駅(福岡市博多区)まで新幹線に無賃乗車したとして、福岡県警は29日、住所不定、無職の男を鉄道営業法違反(無賃乗車)の疑いで逮捕し、発表した。「間違いです」と容疑を否認しているという。
博多署によると、男は29日、JR品川駅から東海道・山陽新幹線のぞみ号に乗り、運賃を支払わずに博多駅まで乗車した疑いがある。
博多駅到着前、車掌が車内改札で男が切符を持っていないことに気づき、精算するよう求めたが黙ったまま応じなかったため、博多駅を通じて警察に通報した。「品川では改札口を突っ切った。新幹線に乗りたくなった」と話しており、所持金は10円だったという。(朝日新聞17.11.30付)

先日書いた通り,鉄道営業法違反(無賃乗車)だけで逮捕されることは例外的なのですが,今回の男性は「住所不定」だったため,逮捕が可能なパターンでした。

ところで,無賃乗車が詐欺になるには,人間を誰か騙す必要があるのですが,今回は「改札口を突っ切った」そうですので,どうやって突っ切ったのかは別として,駅員さんを騙したといえるかは微妙です。
また,車掌さんにニセモノの切符を見せたとかいった事情もありませんから,車掌さんを騙したとはいえないでしょう。
そうすると,この男性は詐欺にならない可能性も十分ありそうです。
方法次第では詐欺(未遂)罪もありえますから,どうやって「改札口を突っ切った」のか,気になります。

2017年11月25日 (土)

キセル乗車と逮捕

アイドルファン仲間の「キセル乗車」を手助けして逮捕された件がニュースになっています。

アイドルファン仲間の「キセル乗車」を手助けしたとして、警視庁は、私立大学3年の男を建造物侵入の疑いで逮捕し、24日発表した。「今までに150回くらいやった。追っかけファンのネットワークがあり、キセルの手助けができる人は全国に数百人いる」と述べているという。
保安課によると、逮捕容疑は9月17日午後1時すぎ、知人=鉄道営業法違反(無賃乗車)容疑で書類送検=の無賃乗車を手助けする目的で入場券2枚を購入し、JR東京駅構内に侵入したというもの。2人はアイドルグループAKB48やHKT48のファンで、共通のファン仲間を通じて知り合ったという。
知人は岡山駅の改札を入場券を使って通り、新幹線に乗車。東京駅で降車して大学生の男と落ち合い、男が購入した入場券を使って改札を出ようとしたが、駅員が気づき、キセルが発覚した。

(朝日新聞17.11.24付。ブログの記事のほうが長く残るので年齢と住所は削除)

無賃乗車も岡山~東京間だとかなり高額になりますし,まして無賃乗車を助けるネットワークを作っていたとなるとかなり悪質ですから,他の仲間への警告の意味もあって逮捕して発表したのでしょう。

ところで,無賃乗車した本人と,手助けした仲間ではどちらが悪いでしょうか。
両方悪いのは当然ですが,無賃乗車に限ってみれば無賃乗車で利益を得たのは本人であって,仲間は捕まるリスクがあるのに特に利益を得ていませんから,本人の方が悪そうです。
法律用語で,犯罪を自ら実行する人を「正犯」,正犯の犯罪を幇助(「ほうじょ」。手助けの意味)するだけの人を「従犯」といいます。
従犯の方が基本的に刑は軽くなります(刑法62条,63条,68条)。

・本人→無賃乗車の正犯
・仲間→無賃乗車の幇助[従犯]

しかし,今回は少し様子が違います。

・本人→鉄道営業法違反(無賃乗車)で書類送検
・仲間→建造物侵入で逮捕・公表

無賃乗車には鉄道営業法29条でちゃんと罰則がありますが,実はその刑罰は50円以下の罰金又は科料となっています。
「えっ?無賃乗車しても罰金50円で済むの!?」と思ったら大間違い。
古い法律で罰金の額が見合わない刑については,罰金等臨時措置法という法律が用意されており,罰金の最高額が2万円未満の場合は,最高額が2万円に引き上げられています。
それでも2万円以下の罰金となると,住所不定でない限り,原則として逮捕されません(刑事訴訟法199条1項)。
無賃乗車した本人は,逮捕もされないわけです。

それに対して,建造物侵入は3年以下の懲役又は10万円以下の罰金となっており,決まった住居があっても逮捕できますから,今回は本人ではなく仲間が逮捕されてしまったわけで,ちょっとバランスが悪い気もします。

・本人→2万円以下の罰金又は科料
・仲間→3年以下の懲役又は10万円以下の罰金

もっとも,無賃乗車は駅員さんや車掌さんをうまく騙さないと途中で発覚してしまいますから,今回の場合は詐欺罪(10年以下の懲役)にあたる可能性が否定できません。
鉄道営業法違反に比べると,誰をどうやって騙したのか特定する必要があるため,とりあえず鉄道営業法違反にしてあると思われますが,詐欺罪になれば罰金では済みませんし,罰金刑でも犯罪として前科になりますから,絶対に無賃乗車はやめましょう。

※無賃乗車が詐欺にあたるかどうかに加え,仲間の行為が本当に建造物侵入にあたるのか,ならば本人はなぜ建造物侵入ではないのか,といったあたりも法律的には興味深い論点ですが,今日は時間がないので割愛します。