ニュースと法律

2017年12月22日 (金)

1か月分タダ働き?(横綱への給与不支給について)

大相撲の暴行事件をめぐって,横綱2名に対し,1月の給与不支給の処分がされるそうです。
暴行事件やその後ゴタゴタにコメントする気はありませんし,力士の場合は相撲部屋に所属力士数に応じてお金が出ているため,それで横綱が生活に困るわけではないようです。

しかし,普通の勤労者にとって,1か月分の給与を1円ももらえないとなると生活に重大な影響がありますから,非常に重い制裁です。
悪いことをして出勤停止になればともかく,1か月普通に仕事をしながら給与はゼロといわれると辛いですね。

そこで,労働基準法91条は次のように減給の上限を決めています。

就業規則で、労働者に対して減給の制裁を定める場合においては、その減給は、一回の額が平均賃金の一日分の半額を超え、総額が一賃金支払期における賃金の総額の十分の一を超えてはならない。

平均賃金は,3か月間にもらった賃金を3か月間の日数(休日を含む)で割った額ですから,残業代等を含めて月給が30万円であれば,平均賃金は約1万円になります。
その場合,減給の上限は1回につき平均賃金の半額である約5000円まで,1か月の間に複数回減給されたとしても,その合計額は月給の10分の1である3万円まで,と制限されることになります。
当然,1か月分の給与をゼロにするということは許されません。

ただし,これは働いたのに給与を払わない,という場合です。
出勤停止処分であれば,そもそも働いていませんから給与は発生しません。
なお,上記いずれの制裁も,減給や出勤停止をするだけの処分理由が認められなければ許されません。
減給や出勤停止は解雇ほどではないものの相当に重い制裁ですので,それに見合った処分理由が必要となります。

もし,従業員間で酒席での暴行事件があったとしても,大相撲にならって1か月間タダ働きだ!と処分すると大変なことになります。暴行の程度や経緯,反省状況等に照らして,減給はそもそも許されないという場合もありますし,仮に減給がやむを得ないとしても平均賃金の半額を除いた額は支払い義務が残ります。
さらに,労働基準法91条違反の減給には刑事罰が用意されています(同法120条により30万円以下の罰金)。

ちなみに,労働基準法は「労働者」にしか適用されません。
労働基準法にいう「労働者」とは,「職業の種類を問わず、事業又は事務所に使用される者で、賃金を支払われる者」をいいます(同法9条)。
もっとも,実態は「労働者」なのに,契約の形式上は「労働契約」以外の契約になっているなど,「労働者」といえるのかどうかが問題となる例は昔から少なくありません。

大相撲の力士は日本相撲協会と「力士所属契約」という契約をしているそうですが,これが労働契約なのかどうかが争われた事件は複数あります。

○東京地裁平成24年5月24日判決(判タ1393-138)
無気力相撲を理由に解雇された元十両の事案です。
無気力相撲による解雇は有効であるとして,力士所属契約の性質について判断せずに元十両敗訴としました(控訴後も結論は同じ。)。
労働契約の方が解雇は厳格に判断されるため,仮に労働契約であるとしても解雇が有効なのであれば,力士所属契約が労働契約でなかったとしてもやはり解雇(契約解除)は有効である,という論法です。

○東京地裁平成22年4月19日判決(判タ1346-164)
大麻使用を利用として解雇された元幕内・元十両力士の事案です。
これも大麻使用を理由とした解雇は有効であるとして,力士所属契約の性質について判断せずに元力士敗訴としました。

○東京地裁平成25年3月25日判決(判タ1399-94)
無気力相撲を理由に解雇された元幕内力士の事案です。
裁判所は力士所属契約は典型的な雇用契約でも準委任契約でもなく,「有償双務契約としての性質を有する私法上の無名契約」であると述べ,相撲協会の定めた懲罰規定にしたがって解雇の有効性を判断していますが,それにあたっては労働契約における解雇についての考え方を考慮すべきとしています(結論は解雇無効)。

○東京地裁平成25年9月12日判決(判タ1418-207)
野球賭博問題で解雇された元大関の事案です。
裁判所は力士所属契約は「準委任契約と労働契約の双方の性質を有する無名契約である」として労働契約の性質を有することを認めつつ,労働契約の性質が強いとしても,懲戒解雇は有効であるとしました(元大関が敗訴,控訴審も同じ)。

○東京地裁平成23年2月25日決定(労判1029-86)
親方に引退届を提出された幕下力士の事案です。
幕下力士は「有給」とされていますが,「本場所手当」(1場所15万円)しか支給されていないことなどを考慮して「労働契約」ではないと判断しました(結論としては準委任契約類似の契約であるが,力士から引退の申出があったとは認められないとして,契約の継続を認めました。)。

以上のとおり,明確に労働契約と認めた例はありませんが,東京地裁平成25年9月12日判決が労働契約の要素を有するとしていることからすると,労働基準法が適用される可能性がないとはいえません。
そういった意味では,初場所のある1月に給与不支給とするのは,仮にそれだけの重大事案であるとしても,労働基準法91条違反の可能性がありうるのではないでしょうか。

2017年11月30日 (木)

無賃乗車と逮捕(別件)

先日,キセル乗車と逮捕について書きましたが,今度は無賃乗車した本人が逮捕されました。

品川駅(東京都港区)から博多駅(福岡市博多区)まで新幹線に無賃乗車したとして、福岡県警は29日、住所不定、無職の男を鉄道営業法違反(無賃乗車)の疑いで逮捕し、発表した。「間違いです」と容疑を否認しているという。
博多署によると、男は29日、JR品川駅から東海道・山陽新幹線のぞみ号に乗り、運賃を支払わずに博多駅まで乗車した疑いがある。
博多駅到着前、車掌が車内改札で男が切符を持っていないことに気づき、精算するよう求めたが黙ったまま応じなかったため、博多駅を通じて警察に通報した。「品川では改札口を突っ切った。新幹線に乗りたくなった」と話しており、所持金は10円だったという。(朝日新聞17.11.30付)

先日書いた通り,鉄道営業法違反(無賃乗車)だけで逮捕されることは例外的なのですが,今回の男性は「住所不定」だったため,逮捕が可能なパターンでした。

ところで,無賃乗車が詐欺になるには,人間を誰か騙す必要があるのですが,今回は「改札口を突っ切った」そうですので,どうやって突っ切ったのかは別として,駅員さんを騙したといえるかは微妙です。
また,車掌さんにニセモノの切符を見せたとかいった事情もありませんから,車掌さんを騙したとはいえないでしょう。
そうすると,この男性は詐欺にならない可能性も十分ありそうです。
方法次第では詐欺(未遂)罪もありえますから,どうやって「改札口を突っ切った」のか,気になります。

2017年11月25日 (土)

キセル乗車と逮捕

アイドルファン仲間の「キセル乗車」を手助けして逮捕された件がニュースになっています。

アイドルファン仲間の「キセル乗車」を手助けしたとして、警視庁は、私立大学3年の男を建造物侵入の疑いで逮捕し、24日発表した。「今までに150回くらいやった。追っかけファンのネットワークがあり、キセルの手助けができる人は全国に数百人いる」と述べているという。
保安課によると、逮捕容疑は9月17日午後1時すぎ、知人=鉄道営業法違反(無賃乗車)容疑で書類送検=の無賃乗車を手助けする目的で入場券2枚を購入し、JR東京駅構内に侵入したというもの。2人はアイドルグループAKB48やHKT48のファンで、共通のファン仲間を通じて知り合ったという。
知人は岡山駅の改札を入場券を使って通り、新幹線に乗車。東京駅で降車して大学生の男と落ち合い、男が購入した入場券を使って改札を出ようとしたが、駅員が気づき、キセルが発覚した。

(朝日新聞17.11.24付。ブログの記事のほうが長く残るので年齢と住所は削除)

無賃乗車も岡山~東京間だとかなり高額になりますし,まして無賃乗車を助けるネットワークを作っていたとなるとかなり悪質ですから,他の仲間への警告の意味もあって逮捕して発表したのでしょう。

ところで,無賃乗車した本人と,手助けした仲間ではどちらが悪いでしょうか。
両方悪いのは当然ですが,無賃乗車に限ってみれば無賃乗車で利益を得たのは本人であって,仲間は捕まるリスクがあるのに特に利益を得ていませんから,本人の方が悪そうです。
法律用語で,犯罪を自ら実行する人を「正犯」,正犯の犯罪を幇助(「ほうじょ」。手助けの意味)するだけの人を「従犯」といいます。
従犯の方が基本的に刑は軽くなります(刑法62条,63条,68条)。

・本人→無賃乗車の正犯
・仲間→無賃乗車の幇助[従犯]

しかし,今回は少し様子が違います。

・本人→鉄道営業法違反(無賃乗車)で書類送検
・仲間→建造物侵入で逮捕・公表

無賃乗車には鉄道営業法29条でちゃんと罰則がありますが,実はその刑罰は50円以下の罰金又は科料となっています。
「えっ?無賃乗車しても罰金50円で済むの!?」と思ったら大間違い。
古い法律で罰金の額が見合わない刑については,罰金等臨時措置法という法律が用意されており,罰金の最高額が2万円未満の場合は,最高額が2万円に引き上げられています。
それでも2万円以下の罰金となると,住所不定でない限り,原則として逮捕されません(刑事訴訟法199条1項)。
無賃乗車した本人は,逮捕もされないわけです。

それに対して,建造物侵入は3年以下の懲役又は10万円以下の罰金となっており,決まった住居があっても逮捕できますから,今回は本人ではなく仲間が逮捕されてしまったわけで,ちょっとバランスが悪い気もします。

・本人→2万円以下の罰金又は科料
・仲間→3年以下の懲役又は10万円以下の罰金

もっとも,無賃乗車は駅員さんや車掌さんをうまく騙さないと途中で発覚してしまいますから,今回の場合は詐欺罪(10年以下の懲役)にあたる可能性が否定できません。
鉄道営業法違反に比べると,誰をどうやって騙したのか特定する必要があるため,とりあえず鉄道営業法違反にしてあると思われますが,詐欺罪になれば罰金では済みませんし,罰金刑でも犯罪として前科になりますから,絶対に無賃乗車はやめましょう。

※無賃乗車が詐欺にあたるかどうかに加え,仲間の行為が本当に建造物侵入にあたるのか,ならば本人はなぜ建造物侵入ではないのか,といったあたりも法律的には興味深い論点ですが,今日は時間がないので割愛します。